Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

「ハーバード・カクテル」Recipe 1 Harvard Cocktail

クルボアジェ
V.S.O.P.
2/3
スイートベルモット 1/3
グレナデンシロップ 1tsp.
アロマティック
ビターズ
2dashes
ソーダ水 少量
ステア/ソーサー型シャンパングラス
ビターズまでの材料をステアして、グラスに注ぐ。トップにソーダ水を少量加える

「ブラウン・カクテル」Recipe 2 Brown Cocktail

ジムビーム 1/2
ドライベルモット 1/2
オレンジビーターズ 2dashes
ステア/カクテルグラス
材料をステアして、グラスに注ぐ

ファッションにも影響を与えたIVYリーグ

アメリカ東海岸北東部の名門私立8大学によって構成されているIVYリーグについて前回エッセイで触れた。それぞれの大学のスクール・カクテルというものがあり、そのなかのひとつ「ハーバード・クーラー」を登場させたが、今回は「ハーバード・カクテル」と「ブラウン・カクテル」のふたつをご紹介しよう。

まずIVYリーグを構成する大学(創立年順/所在地)。
ハーバード大学 /1636年創立/マサチューセッツ州ケンブリッジ
イェール大学 /1701年創立/コネチカット州ニューヘイブン
ペンシルベニア大学 /1740年創立/ペンシルベニア州フィラデルフィア
プリンストン大学 /1746年創立/ニュージャージー州プリンストン
コロンビア大学 /1754年創立/ニューヨーク州ニューヨーク
ブラウン大学 /1764年創立/ロードアイランド州プロビデンス
ダートマス大学 /1769年創立/ニューハンプシャー州ハノーバー
コーネル大学 /1865年創立/ニューヨーク州イサカ

歴史ある大学ばかりで、ハーバード大学は全米最古の大学であり、またほとんどの大学が独立戦争前から植民地高等教育に貢献していた。唯一、コーネル大学だけが南北戦争後の創立である。

8大学とも全米トップクラスの超難関校として知られ、また伝統的に東海岸の富裕層の集まるエリート校、といった見方もされている。これまで大統領をはじめ、政財界はもちろん学術、法曹といった各界をリードする人材を数多く輩出してきた。

さて、IVYリーグはどのように結成されたのか。まず1852年にハーバード大学とイェール大学のボート部が試合をした。そして20世紀に突入する前後には大学間でのスポーツを通じての交流がかなり盛んになっていたようだ。対抗戦がおこなわれる度に一般市民の注目が集まるようにもなった。

リーグ名は、これらの大学のレンガ造りの古い校舎が蔦(ツタ/Ivy)に覆われていたことからIVYリーグと呼ばれるようになったといわれている。名前だけが先行していたのだが、正式に8校で構成するカレッジスポーツ連盟IVYリーグが発足したのは遅く、1954年のことになる。

日本の還暦を過ぎた方たち、とくに団塊の世代の方たちにとってIVYというワードは青春につながる響きがあるはずだ。

1960年代半ばから1970年代半ば頃までアイビールックと呼ばれるファッションスタイルが日本の若者の間で大流行した。IVYリーグの学生たちによく見られた三つボタンのブレザー、ボタンダウンシャツあるいはポロシャツ、コットンパンツ、ローファーの靴を基調としたスタイルである。コートはキャメルのステンカラーだった。

コミュニティのオリジナルカクテルがあっていい

スクール・カクテルを生んだのはニューヨーク五番街にあったホランド・ハウス(Holland House)というホテルである。1891年12月にオープンしており、1920年に禁酒法施行とともに閉館している。主要な顧客は大統領をはじめ政財界のリーダーたちで、パーティーや極秘会議などもおこなわれ、格式ある社交場でもあったようだ。

このホテルのバーテンダーだったジョージ・ケッペラーが1895年頃にハーバード、イェール、プリンストンの3大学のカクテルをつくったといわれている。上得意客の多くがそれらの大学のOBであったことから創作したものであろう。同窓会カクテルといえるものだ。

そのひとつ「ハーバード・カクテル」を紹介しよう。ブランデー、スイートベルモット、グレナデンシロップ、ビターズをステアしてソーサー型シャンパングラスに注ぎ、トップに少量のソーダ水を加えて仕上げる。

レシピからすると「ブランデー・マンハッタン」的なアレンジといえる。ブランデーの味わい、旨味とビターズが効いている。そしてソーダ水が口当たりの良さ、飲みやすさを生んでいる。

正直にいえば、もう少しインパクトが欲しい。現代の洗練されたブランデー(コニャック)だとパンチが弱いのではという印象がある。さらにはフレッシュなグレナデンが使える時期であれば、甘酸にもっとメリハリが生まれるような気がした。とはいえ、これはこれで楽しめる味わいである。

もうひとつは「ブラウン・カクテル」。こちらはどこで、いつ、誰が創作したかは不明。現在のところ1939年に出版されたカクテル・ブックにはじめて登場したとされている。

こちらは「ドライ・マンハッタン」的なものだ。ライウイスキーではなくバーボンウイスキーを使う。いろんなバーボンで試してみたが、ほどよい甘さとスパイシーさのある「ジムビーム 」がいい。

ただ、ビターズのアクセントに救われている感がある。それでも、こういう同窓会カクテルがあるんだ、という面白味で楽しむにはいい。

 

しかしながら現在、アメリカのバーテンダーであってもスクール・カクテルの存在を知っている人はかなり少ないらしい。文献のなかには、バーテンダーだけでなく大学OBでさえ知らない、とか、忘れ去られたカクテルと表現したものもある。

理由として、エリート意識や権威主義的なものを敬遠する傾向がある、という文章もあった。たとえそうであったとしても、こういうカクテルが創作されていることが素晴らしいのだ。日本では聞いたことがない。記念カクテルをはじめ、たくさん創作される動きが生まれることを願う。

メジャーになることなく小さなコミュニティのドリンクに落ち着いたとしても、それはそれで自分たちだけの特別なものとして楽しめるはずだ。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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クルボアジェ V.S.O.P
クルボアジェ V.S.O.P

ジムビーム
ジムビーム

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