Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

「ブランデー・デイジー」Recipe1 Brandy Daisy

クルボアジェ
V.S.O.P
45ml
レモンジュース 20ml
グレナデンシロップ 2tsps.
シェーク/ワイングラス
シェークして、クラッシュドアイスを詰めたグラスに注ぐ。レモンあるいはオレンジのスライス、ミントの葉を飾り、ストローを添える

「46デイジー」Recipe2 Forty-six Daisy

メーカーズマーク46 45ml
レモンジュース 20ml
ルジェ クレーム
ド カシス
2tsps.
ビルド/ジュレップカップ
クラッシュドアイスを詰めたカップに材料を入れ、よく冷えるまでステアする。レモンあるいはオレンジのスライス、ミントの葉を飾り、ストローを添える

19世紀半ば過ぎに生まれた古典的カクテル

露地植えのヒナギク(雛菊)の花が咲く頃となった。5月くらいまで可愛らしい姿を見せてくれる。英語ではデイジー(Daisy)。夜や曇り空の日には花を閉じてしまうことから、Day's eye(日の目)が語源らしい。

八重咲きのヒナギクはふんわりと可憐で鞠(まり)のようだ。一重咲きはマーガレットによく似ている。

この季節にカクテルブックを開くと、必ず「ジン・デイジー」に目が止まる。いろいろなカクテルブックに、デイジーには、特別な何か、素敵なもの、といった意味もある、と記されているけれど、試したことがない。おそらく日本のバーでオーダーされることは稀なはずだ。

マイナーながらデイジーは一応定義づけされている。スピリッツに柑橘系ジュース、フルーツシロップあるいはリキュールを使用する。少量のソーダ水を加えてもよい。

スタイリングはクラッシュドアイスを詰めたゴブレットまたはワイングラスにフルーツを飾り、ストローを添える。またミントの葉を飾るスタイルも多い。アメリカの文献で、ミントの葉は不可欠、と書かれたものをいくつか目にした。ジュレップカップの使用も見られる。

調べてみると古典的カクテルであった。文献上、最初の登場は1866年とされ、『Fast Men and Grass Widows』(ヘンリー・L・ウィリアムス著)という小説の作中らしいのだが、具体的な文章は不明である。

カクテルブック初出は1876年。『The Bar-tender's Guide』第2版(ジェリー・トーマス著)には「ブランデー・デイジー」をメインにウイスキー、ジン、ラムベースのデイジーが掲載されている。

簡単に「ブランデー・デイジー」のレシピを紹介すると、ブランデー、レモンジュースに、それぞれ少量のオレンジリキュール、ガムシロップの材料をシェークする。シェーブドアイス(かき氷に使われるような薄く削った氷)をグラスに詰め、ソーダ水で満たすというものだ。

この後、19世紀末から20世紀初頭にかけて多彩なアレンジが生まれ、リキュールは柑橘系だけではなくハーブ系もあり、シロップもグレナデンやラズベリーなどが使われるようになった。ソーダ水の有無、飾りつけ、そしてシェーク、ステア、ビルドと技法もさまざまだ。

現在、日本での「ジン・デイジー」紹介レシピの多くは、ジン、レモンジュースに少量のグレナデンシロップをシェークし、クラッシュドアイスに詰めたグラスに注ぐ、というスタイルになっている。

ブランデー、バーボンベースは特別に美味しい

さて、まずは日本のカクテルブックでの紹介が多い「ジン・デイジー」を試してみた。

正直に言う。色調は可愛らしいが、味わいはいまひとつ。市販のグレナデンシロップとの相性が悪いのではなかろうか。後口に嫌な渋味を感じる。

フレッシュなザクロが入手できる時期に、甘さを調整しながらシロップがつくれる状況であればまた違うのかもしれない。「ジン・デイジー」が好まれた昔はオールドトムジンやジュネバ(オランダジン)が使われていたようだから、味わいの再現は難しいのかもしれない。

ならばと「ブランデー・デイジー」。これは春らしい感覚もあり、誰もが納得する香味である。クラッシュドアイスを詰めたワイングラスはオレンジがかった赤色に染まり、ミントの緑葉とのコントラストで魅了する。口をストローに近づけると、ミントの爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。

口中にクールな感覚が滑り込むと、華やかでフルーティーな甘みと酸味に満たされる。柔らかいコクというか、深みもある。レモンとグレナデンシロップの味わいが、ベースに選んだコニャック「クルボアジェV.S.O.P」のエレガントさと見事に親和している。

次に「ウイスキー・デイジー」。基本的にはライウイスキーやバーボンウイスキーがベースとなる。「ブランデー・デイジー」よりもさらに春らしい、しなやかで軽快なタッチに仕上がったのが「メーカーズマーク46」ベースであった。

「メーカーズマーク46」は原酒が熟成したホワイトオークの樽のなかに、インナースティーブと呼ばれる10枚のフレンチオーク樽の側板を沈めて、数ヵ月間後熟させて生まれる。バニラ、キャラメルのような甘さとともにリッチな複雑味があり、さらにはスムースさも合わせ持つ。

フレンチオークがキーならば、とフランスを代表するリキュールのひとつ「ルジェ クレーム ド カシス」を合わせた。そしてアメリカではポピュラーなジュレップカップに、クラッシュドアイスを詰める。さらにはシェークではなく、グラスに直接つくるビルドで試してみた。しっかりとステアして、カクテルをよく冷やすのだ。

味わいには華やかで爽やかなフルーティーさがある。レモンジュースがカシスの香味を上手く中和させ、ミントの香りも相まって、春の新芽のような感覚が浮遊する。そして穏やかに「メーカーズマーク46」の香味が心地よくそよぎ、明るい春の笑顔のような味わいで魅了する。

飲みながらストローでミントの葉をカップの中に押し込んだり、スライスしたフルーツを押しつぶしたりして、味わいの変化を楽しんでもいい。

 

今年の春は「ブランデー・デイジー」か「46デイジー」を是非とも味わっていただきたい。

デイジーは興味深い。意外だった。サワー系でありながら、ソーダ水を少量加えればフィズ的な感覚にもなる。またクラッシュドアイスとミントの葉は「ミントジュレップ」的でもある。

クラシックカクテルながら、特別といえるほど新鮮だった。ちょっとでも日が射せば、このカクテルは華やかに咲くだろう。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

ブランドサイト

クルボアジェV.S.O.P.
クルボアジェV.S.O.P.

メーカーズマーク 46
メーカーズマーク 46

ルジェ クレーム ド カシス
ルジェ クレーム ド カシス

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