オルガンのしくみをご紹介

オルガンの表側坂崎 紀(音楽学)

サントリーホールのオルガンは、4段の手鍵盤(マニュアル)と足鍵盤(ペダル)を備えています。それぞれの鍵盤は、独立した風箱とパイプ列に連結されていて、それぞれが、ひとつの完結したオルガンとみなせますから「5つのオルガンから構成されている」ともいえます。

写真はコンソール(演奏台)。手鍵盤の左右にある丸いノブはストップ(レジスター)で、それぞれ、特定のパイプ群を発音可能にします。このストップによって、さまざまな材質、形状のパイプを組み合わせて演奏することにより、柔らかい弱音から、華麗で強烈な音までを響かせることができるのです。

演奏に際しては、オルガニストは両手で手鍵盤を、両足で足鍵盤を弾きます。また、必要に応じて、演奏中に素早くストップを操作することもあります。そのための補助装置として、ストップの組み合わせをプログラムしてあらかじめ記憶させ、スイッチあるいはピストンで呼び出す電子的な制御機構が開発され、サントリーホールのオルガンにも採用されています。現在のコンサートでは、ストップ操作を助手に任せることも広く行われています。

手鍵盤

音域は5オクターブですが、ストップ操作によって、実際に発音可能な音域は9オクターブ以上におよびます。 オルガンの鍵盤は、パイプを鳴らすか、鳴らさないかを制御するだけで、鍵盤を強く押しても弱く押しても、音量と音色は一定です。打鍵と離鍵のスピードが、多少音の立ち上がりと余韻に影響することはありますが、基本的には鍵盤はオンオフ・スイッチといってよいでしょう。それだけに演奏に際しては、いつ鍵盤を押し、いつ離すか、というタイミングが重要な意味を持ちます。オルガンは誰が弾いても出てくる音色は同じと思われがちですが、このタイミングによって同じオルガンでも歯切れがよくなることもあれば、しっとりした感じにもなり、音色が違っているかのように聴こえることさえあるのです。

手鍵盤のキー

ナチュラル・キーは黒、シャープ・キーはキー・トップが白と、ピアノの鍵盤とは白黒が逆になっています。数字が書かれた四角の白いボタンは、ストップの組み合わせを記憶させ呼び出すためのコンビネーション・ボタン。

足鍵盤

2オクターブ半の音域を持ち、両足で演奏します。シャープ・キーに対して、ナチュラル・キーがかなり長い点にご注目下さい。

写真1
写真2
写真3
写真4

写真1が、つま先でシャープ・キーを押したところ。現在では、足鍵盤は両足のつま先とかかとを使って演奏します。通常はバスの声部を演奏しますが、曲によっては、アルトを足で演奏したり、まれに2つの旋律を足で演奏することもあります。古い楽器ではかかとが使えないものもあり、バッハがかかとを使ったかどうか、しばしば議論されていますが、楽器と音楽の両面から考えると、バッハも多少はかかとを使った、と考えるのが妥当なようです。

オルガンでは、パイプに送れられる風の強さは一定で、強弱の変化をつけることができません。この欠点を補うために、18世紀以降、一群のパイプを箱(スウェル・ボックス)の中におさめ、シャッターを開閉して「音量を調節する機構」が取り入られるようになりました。サントリーホールのオルガンは演奏台の左右にシャッター(赤い部分)があります。(写真4)

スウェル・ペダルを踏み込んだ状態(写真2)では、シャッターが全開し、中のパイプが見えます(写真3)。この状態では音が外にストレートに出るため、音色は明確になり、音量も大きくなります。 スウェル・ペダルをもどすと、スウェル・ボックスのシャッターは完全に閉じられ、音がボックスの中に閉じ込められるため、音色はやわらかく、音量は小さくなります。