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Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

アビエイション1 Aviation1

シップスミス 2/3
レモンジュース 1/3
マラスキーノ
リキュール
1tsp.
クレーム ド
バイオレット
1tsp.
シェーク/カクテルグラス
材料をシェークして、グラスに注ぐ。好みでマラスキーノチェリーを飾る
*ヒューゴ・エンスリン編纂『Recipes for Mixed Drinks』(1917)掲載レシピはマラスキーノ、バイオレット両リキュールとも2ダッシュ

アビエイション2 Aviation2

シップスミス 2/3
レモンジュース 1/3
マラスキーノ
リキュール
2dashes
シェーク/カクテルグラス
材料をシェークして、グラスに注ぐ
*ハリー・クラドック編纂『The SAVOY Cocktail Book』(1930)掲載レシピ

飛行機開発とともに生まれたカクテル

20世紀初頭、欧米で空飛ぶマシーンの開発がすすむ。1903年のアメリカのライト兄弟による初の有人飛行から次々に羽ばたきがはじまった。

1909年にはフランスのルイ・ブレローが英仏海峡を飛行機で横断した。やがて第一次世界大戦(1914−1918)に突入すると偵察機、戦闘機、爆撃機が開発され、戦後は旅客機や郵便輸送機などの発展、活用へと進化していく。

話題性の高さもあったことだろう。「アビエイション」(Aviation/飛行、航空あるいは航空機、軍用機)という名のカクテルが登場する。しかも飛行機開発のスピードに合わせるかのように、短期間に同名ながら異なるレシピが次々に考案された。

現在愛されている味わいは、第158回『歴史的な1冊の重み/デビルズ・カクテル』で紹介したヒューゴ・リチャード・エンスリンのカクテルブック『Recipes for Mixed Drinks』(初版1916年。翌17年第2版)に掲載されたレシピである。

では1911年から1916年の間に「アビエイション」のカクテル名で登場したレシピとはどんなものか、順にご紹介しよう。

1911年 現在、「アビエイション」の文献初出はサンフランシスコ・クロニクル(日刊新聞/1865年創立)紙の1月9日付記事とされている。ウイスキー、スイートベルモット、ビターズに何か(その時の気分や好み)を1ドロップというもので、基本的には「マンハッタン」である。

1912年 サンフランシスコのパレス・ホテルのバーテンダーを務め、また作家、政治家でもあったウィリアム・T・ブースビーが、デュポネ(赤ワインにキナの樹皮を漬け込んで樽熟成)とシェリー酒で構成したレシピを発表した。彼は『The World’s Drinks And How To Mix Them』をはじめとしたカクテルガイドを出版している。

1913年 シカゴのホテルバーテンダー、ジャック・ストローブが著したカクテルブック『Straub’s Manual of Mixed Drinks』にアップルジャック、ライムに少量のアブサン、グレナデンを使用するレシピを掲載。

1914年 サンフランシスコのバーテンダー、アーネスト P. ローリングがカクテルブック『Rawling’s Book of Mixed Drinks』において、アイリッシュウイスキー、グレープジュースを同量でシェークするレシピを記載。注釈として“St. Francis Hotel style”とある。

これらが「アビエイション」の名で登場しており、そこにエンスリンがカクテルブックで紹介したレシピが加わったのである。彼が掲載した数々のレシピは禁酒法(1920−1933)施行前、当時のニューヨークで飲まれていた標準的レシピのひとつとして捉えられている。

ジン、レモンジュースに少量のマラスキーノリキュール(マラカス種のサクランボが原料)、クレーム ド バイオレット(ニオイスミレで香りづけされたリキュール)を加えてシェークするものだ。

ちなみに、エンスリンがカクテルブックを編纂した1916年、翌17年当時は第一次世界大戦が激しさを増している頃だった。イギリスで開発されたソッピース・バップ、ソッピース・キャメルという優れた複葉戦闘機が登場するとともに、航空母艦の実用化へと向かっていた。

可憐な花の香りとともに浮遊しよう

エンスリンが紹介したレシピを“いま愛されている味わい”と先述したが、実のところ21世紀に入るまでは“忘れられたカクテル”だった。

それまではロンドンのサボイ・ホテルのチーフ・バーテンダー、ハリー・クラドック編纂、1930年刊行の『The SAVOY Cocktail Book』掲載レシピが知られていた。このカクテルブックにおいてはエンスリンが紹介したレシピからバイオレットリキュールが省かれ、地味ながら長きにわたりこのレシピが定着していたのである(今回レシピ2として紹介)。

これは途中、1960年代にバイオレットリキュールのメーカーの生産中止や倒産があったことも影響している。バイオレットリキュールの入手が難しい時代があり、クラドック・レシピは不動となり得たのである。

ジン・サワーのアレンジ的な印象であり、味わいとしては酸味が強調されており、サワー・ファンにとっては好ましいかもしれない。

ところがエンスリンのレシピが知られ、バイオレットリキュールも復活したいま、ネットで海外の反応を調べてみると、“クラドックは何故バイオレットリキュールを省いたのか”との言及がみられる。

二つの論調を紹介しておこう。一つはバイオレットリキュールの記載漏れで、単純な校正ミスというもの。これはとてもよく理解できる。自分自身が校正ミスを繰り返しつづけているからだ。もう一つは、クラドックがバイオレットリキュールを加えないほうが美味しいと感じたからだ、というもの。わたしはこれには同調できない。

同じサワー系のジャンルといっても、少量のバイオレットリキュールを加えることで複雑味が生まれる。マラスキーノとバイオレットの相性がよく、酸味も和らぎ、ほのかなスミレのニュアンスを感じとる楽しみもある。

ただしエンスリンのカクテルブックに記載されたマラスキーノとバイオレットの2ダッシュよりも、どちらも1ティースプーンくらい加えたほうが味わいにふくらみがでる。実際は1tsp.がおすすめだ。

クラドック・ファンのなかには、1930年の段階ですでにバイオレットリキュールが入手困難になっていたから省いたのだ、と述べている方もいらっしゃる。しかしながら、こちらの言い分はかなり苦しい。

サボイ・カクテルブックの索引Aの項、Aviation登場前にバイオレットリキュール使用カクテルがすでに二つ三つ掲載されているのだ。

以前も述べているが、“知らぬが仏”ではある(第135回『禁酒法領海3マイル攻防/スリー・ミラーズ』参照)。ただし救いもある。

いま海外ではエンスリンが紹介したレシピが愛されている。バイオレットリキュールの記載漏れ説があるにしろ、クラドックがサボイのカクテルブックに掲載してくれたからこそ、「アビエイション」は静かに認知されつづけた。そしてエンスリンのカクテルブックが発掘されたことにより注目を浴び、復活することができた、と語る人もいるのだ。

さて、リラックスしよう。これからはスミレの季節。可憐な花とふんわりと心地よく香るスミレを想い浮かべながらゆったりと「アビエイション」を味わっていただきたい。そんなゆとりある時間を過ごせたなら、当たり前のように戦闘機が飛び交う日常が生じるはずはない。

風を友として大きく羽を広げて空を舞う鳥のように、悠々としなやかに、世界中の人々が穏やかに暮らせますようにと祈りながら、まずはひと口。

しかしながらいまこのときの味わいは切ないかもしれない。それでも必ずや切なさから解き放たれる日が来るはずだ。きっと。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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