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ずいぶん前から、僕は「あり得たかもしれない音楽」というものを考えてきた。それは「新しい音楽」ではない。現実には存在していない、もしかしたら地上にあったかもしれない音楽を想像/創造してみるということである。それは、ある意味で架空の伝統芸能のようなものを考えてみることに近いだろう。そのような中で僕は「本当にある」ガムラン音楽と出会った。当然のことだが、そこにはひとりの個人が考えうる「あり得たかもしれない音楽」の想像力を遙かに超えた、確固たるコスモロジーがあり、「あり得たかもしれない音楽を考えるのだ!」などという僕の妄想をあざ笑うかのような具体性と多様性、そして西洋音楽における論理性、合理性とは異質の明晰さがあった。楽器や音律、演奏形態などをはじめとする、この完璧で、しかも極めて精緻なガムラン音楽が示唆する叡智こそ、あたかも“唯一無二”のように見えていた西洋的な「知のありかた」と、それに支配された近・現代の人間世界を見つめ直す鍵となるのではないか。
しかし、このことはガムラン音楽に真剣に向き合ってきた世界中の人々にとっては、「今さら言うまでもない」ことかもしれない。考えるべきは現代世界におけるガムラン作品創造の困難さについてだろう。そもそも、それは可能なのか。なぜなら、現代音楽における新作の委嘱や発表形態(コンサート)それ自体が西洋音楽の歴史が生み出した制度に他ならないからだ。つまり、僕がインドネシアで聞いたガムランがまさに人々が生きる空間で営まれる共同体の音楽であったのに対して、外部環境から完全に遮断されたコンサートホールで発表されるガムランの「新作初演」は、あくまでも西洋音楽の「枠組み」の中で行われるものだ。そこでは、メディア装置を介して鑑賞される音楽や映像「作品」同様、それらも物珍しい「コンテンツ」にしかならないのではないか。僕が期待する、ガムランが暗示する「知のありかた」もまた、”普遍的な”西洋音楽という枠組みにおける風変わりなアイデアのひとつと見做されてしまうだけなのではないか。
…そうかもしれない。しかし、これからはそうではないのかもしれない。いずれにせよ今、僕と同じ時空を生きる作曲家たちが試みる「ガムランの新作」が聞きたい。なぜなら、前世紀の文化人類学者たちが記録用の機材を担いで未開の地に赴き、フィールド調査に熱中していたような時代を後にして、彼らはもはや「西洋音楽」の文脈(枠組み)からは自由に創作を続けている作曲家たちだからだ。つまり、彼らはガムラン音楽を好奇の目で見るわけでもなく、ごく自然にガムランに学び、みずからの表現に結びつけている。だから、「3管編成のオーケストラならこう書くが、ガムランのためならこう考える」ということが自然にできる感性と能力を持つ彼らは、新作を通して「西洋音楽は一体、何を手放してしまったのか」などと、ことさら意識する必要もないのかもしれない。ただ、今回の新作がその問いを思い起こさせてくれるとするなら、たとえそれが、すぐにまた「西洋音楽」として回収されてしまうとしても、今回の委嘱初演を僕は無意味だったとは思わないだろう。
8/25(金)〜8/27(日)
ブルーローズ(小ホール)
ホールに出現する「ひらかれた家」。
国と音楽のほとりを漂う、幕間のない三日間。
En-gawaでは、「ひらかれた家」を中心にホールの中が広場となり、自由にその中を散策することができます。音楽が鳴ると、行商や屋台と共に街の顔ぶれが集まる、ガムランの国インドネシアの一角に居るようなその雰囲気は、昔の縁側に流れる時間を想起させるかもしれません。広場のあちこちにある屋台や露店を楽しみながら、演奏が始まる時間を待ちましょう。この三日間に幕間はありません、常にひらかれている時間に身を委ねてみてください。
大ホールで作品を発表する作曲家や、さまざまなジャンルの特別ゲストによるパフォーマンスと、ガムラン演奏によるコラボレーション。おおよその時間になると広場で自然とはじまる、ゆるやかで、ひらかれたコンサートです。「ザ・プロデューサー・シリーズ」セット券、もしくはEn-gawa1日パスのご提示でご入場いただけます。セット券は3日とも、1日パスは各日のご入場となります。
※ タイムスケジュールなど、詳細は本ページで随時発表いたします。
ホスト:三輪眞弘
En-gawaの夜会。ガムランを囲みながら、夏の夜の座談会を開催します。「ザ・プロデューサー・シリーズ」セット券、もしくはEn-gawa1日パスのご提示でご入場いただけます。セット券は両日、1日パスは各日のご入場となります。
オープニング
(1時間程度を予定)
「ザ・プロデューサー・シリーズ」セット券をお持ちの方のみ、特典としてご入場いただけます。
後援:インドネシア共和国大使館
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】
※入退場自由
※未就学の方は無料でこの公演にご入場いただけるようになりました。
※場内が規定の人数を超えた場合には、一時的に入場を制限させていただく事がありますのでご了承ください。
※前売券は、各公演日前日まで販売いたします。
サントリーホール・メンバーズ・クラブ先行発売: | 5月9日(火)10:00〜14日(日) |
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一般発売: | 5月15日(月)10:00〜 |
※先行期間中は窓口での販売はございません。
※学生券はサントリーホールチケットセンター(WEB・電話・窓口)のみ取り扱い。25歳以下、来場時に学生証提示要。1公演につき、お一人様1枚限り。
ザ・プロデューサー・シリーズ セット券 8,000円(限定50セット)
5月9日(火)10:00〜 一般発売開始
チケット取り扱い: サントリーホールチケットセンター(電話・窓口)のみ
※1回のお申込みにつき2セットまで。
8/27(日)
17:00開演(16:20開場)大ホール
※曲順が下記の通り決定しました。
後援:インドネシア共和国大使館
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】
サントリーホール・メンバーズ・クラブ先行発売: | 5月9日(火)10:00〜14日(日) |
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一般発売: | 5月15日(月)10:00〜 |
※先行期間中は窓口での販売はございません。
※学生券はサントリーホールチケットセンター(WEB・電話・窓口)のみ取り扱い。25歳以下、来場時に学生証提示要。1公演につき、お一人様1枚限り。
ザ・プロデューサー・シリーズ セット券 8,000円(限定50セット)
5月9日(火)10:00〜 一般発売開始
チケット取り扱い: サントリーホールチケットセンター(電話・窓口)のみ
※1回のお申込みにつき2セットまで。
1958年東京生まれ。78年に渡独、国立ベルリン芸術大学で作曲を尹伊桑に、85年より国立ロベルト・シューマン音楽大学でギュンター・ベッカーに師事する。
80年代後半からコンピュータを用いた作曲の可能性を探求し、特にアルゴリズミック・コンポジションと呼ばれる手法で数多くの作品を発表。また、様々な分野のアーティストとのコラボレーションに加え、CD制作、著作活動など、その活動は多岐に渡る。
85年ハムバッヒャー国際作曲コンクール佳作、89年第10回入野賞第1位、91年「今日の音楽・作曲賞」第2位、92年第14回ルイジ・ルッソロ国際音楽コンクール第1位、95年村松賞新人賞、2004年オーケストラのための『村松ギヤ・エンジンによるボレロ』で芥川作曲賞、07年音楽についての独自の方法論「逆シミュレーション音楽」がプリ・アルスエレクトロニカ、デジタル・ミュージック部門でグランプリ(ゴールデン・ニカ)を受賞。さらに08年美術家マーチン・リッチズとの共作『Thinking Machine』が同賞ハイブリッド・アート部門で佳作入選。09年フォルマント兄弟として『フレディの墓/インターナショナル』が再び同賞デジタル・ミュージック部門で佳作入選。また、映像作家の前田真二郎との共同作品、モノローグ・オペラ『新しい時代』(00)の再演に対して、17年に愛知県芸術劇場とザ・フェニックスホールが第17回佐治敬三賞を受賞。21年には、自身のこれまでの業績と「ぎふ未来音楽展2020 三輪眞弘祭 —清められた夜—」(主催:サラマンカホール)が評価され、第52回サントリー音楽賞と第20回佐治敬三賞の同時受賞に輝いた。
作品集CDに『赤ずきんちゃん伴奏器』(1995)、『東の唄』(98)、『新しい時代信徒歌曲集」(2001)、『言葉の影、またはアレルヤ』(01)、『村松ギヤ(春の祭典)』(12)など。著書に『コンピュータ・エイジの音楽理論』(1995)のほか『三輪眞弘音楽藝術 全思考1998-2010』により2010年度第61回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。1996年より岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー[IAMAS]、2001年より情報科学芸術大学院大学[IAMAS]教授。旧「方法主義」同人。「フォルマント兄弟」の兄。
2022年結成。さまざまな分野と国籍のメンバーからなる拡張するアート・コレクティヴ。kitaとは、インドネシア語で「わたしたち」を意味する。この言葉を手がかりに、ひらかれたコラボレーションを重視し、多様な他者を巻き込む彼らのプロジェクトは、「だれがKITAか」を曖昧にし、芸術の主体について問いなおす。日本とインドネシアを主な拠点に、国家や言語、ジャンルの境界線を越えて交わされるコミュニケーションから、祝祭的なプロジェクトや作品だけでなく、生活空間で用いる実用品も生み出している。KITAは、こうした活動を通して、中心メンバーを含めた関わる人びとの生を有機的に編み直し、現代社会の環境下における、新しい「わたしたち」のありかを探す。
2023年3月現在のコアメンバーは、アナスタシア・ユアニタ、北澤潤、シティ・サラ・ライハナ、津田翔平、能作淳平、ミヤタユキ、ムニフ・ラフィ・ズディ(五十音順)。
1998年に発足。ジャワのガムラン音楽をルーツに、伝統的な古典音楽の上演のみならず、世界各地の作曲家への新作委嘱も積極的に行い、国内外で高い評価と注目を得ている。特に日本・インドネシア修好50周年を記念した2008年の公演は、国際交流基金、アサヒビール芸術文化財団の助成を得て挙行され、現地に大きなインパクトを与えた。
「現代音楽としてのガムラン」の追究は作曲家、アーティストとのコラボレーションによって実現している。野村誠との共同制作による歌舞劇『桃太郎』に加え、三輪眞弘によって『愛の讃歌』ほか3作がマルガサリのために作曲され、20年にサラマンカホールで初演された『鶏たちのための五芒星』を含む「ぎふ未来音楽展2020 三輪眞弘祭 清められた夜」(第20回佐治敬三賞を受賞)にも出演。
現代において音楽文化が果たす役割について考え、実践的に提案も行っている。具体的には障害のある人との作品づくり、甚大な災害(大地震など)を受けた人々、地域へのサポートなどがある。04年より障害者とともに舞台作品『さあトーマス』を制作し、大阪、東京、滋賀、奈良、徳島などで公演を重ねる。06年の中部ジャワ大地震に際しては、サポート組織を立ち上げた。近年は京都府木津川市に第2拠点を設け、21年から京都定期公演を開始。
メンバーは、恵美須屋直樹、大井卓也、黒川 岳、谷口かんな、中川 真、西 真奈美、西村彰洋、森山みどり。
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