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若きプロフェッショナルたちへ

「サントリーホール アカデミー」トピックス

室内楽アカデミー

室内楽アカデミー第5期が2018年9月にスタート。2019年6月のチェンバーミュージック・ガーデンまで密度の濃い活動が行われました。2年間のワークショップ、チェンバーミュージック・ガーデンの公演を取材した片桐卓也氏、山田治生氏のレポートをフェローへのインタビューも交えてご紹介します。

  • チェンバーミュージック・ガーデン 「堤剛プロデュース2019」
    堤剛(チェロ)、CMAアンサンブル

  • チェンバーミュージック・ガーデン 「堤剛プロデュース2019」
    堤剛(チェロ)、CMAアンサンブル

クァルテット・インテグラ インタビュー

「室内楽アカデミーで同世代の演奏を聴き合うことが刺激的」
「それぞれが常に違う意見を持つグループでありたい」

山田治生(音楽評論家)

クァルテット・インテグラ(三澤響果、菊野凜太郎、山本一輝、築地杏里)は、今年の秋吉台音楽コンクール弦楽四重奏部門で第1位を獲得するなど、ますます注目度を高めている若手弦楽四重奏団である。サントリーホール室内楽アカデミーの5期生として研鑽を積んでいる。2015年に桐朋学園で結成され、そのとき、三澤と菊野が高校2年生で、山本と築地は大学1年生だったという。

最初の頃の話を聞かせていただけますか?

山本:「名前をつけずに2015年に始めました。ヴァイオリンの先生が僕と同じだった菊野君に声をかけたのが最初でした」

三澤:「小学生のとき、初めてカルテットをやりました。その後、桐朋の高校に入ったら、絶対、カルテットをやろうと決めていました」
菊野:「カルテットは高校に入って初めてでした。先輩から誘われて始めましたが、めちゃめちゃ面白いと思いました(笑)」
築地:「私は、一人で弾くより人と弾く方が好き。高校入ってから、チェロを弾く人は少ないので、室内楽の授業では必ず誘われました」
山本:「高校1年で初めてカルテットをやってみて、その頃は、まだ、ヴァイオリンを弾いていましたが、カルテットではヴィオラしか弾かなかったので、それがヴィオラに転向するきっかけとなりました」

結成して、どのように練習していましたか?

  • 三澤響果 菊野凜太郎 山本一輝 築地杏里

山本:「最初は、学校のカリキュラムで組んでいました。その頃は、週1回くらいのペースで、朝7時から練習していました。1限目のある日は8時40分まで、2限目からの日は10時まで。最初にやったのはモーツァルトの『狩』でした」
三澤:「次にドビュッシーでした。桐朋の室内楽演奏会に初めてこの4人で出て、初めて人前で弾きました」
山本:「ドビュッシーはめちゃくちゃ合わせをしましたね。1年ぐらいドビュッシーだけを弾いていました」
三澤:「初めてホールで弾いたのもドビュッシー。2015年11月です」
山本:「グループ名があった方がいいからといわれて、“トイトイ”という名前を付けたのが2016年」
三澤:「カッコいい名前は似合わないと思って、そういうのを避けました(笑)」
菊野:「2016年から半年くらい、プロジェクトQを受講しました。そのとき、偶然、講師にギュンター・ピヒラーさんが来られていて、レッスンのあと、“来年のイタリアでのセミナーに来ないか”と誘われ、行きました」

  • 三澤響果 菊野凜太郎 山本一輝 築地杏里

2017年、全員が大学生になったのですね。学校での先生は?

三澤:「自分が高校生から大学生になって、二人に先輩という感じはなくなりました。今は何でも言えるようになりました」
菊野:「僕はずっとこういう感じでした(笑)。先生は磯村和英先生と山崎伸子先生です」
山本:「山崎先生はクリアで具体的。磯村先生はイマジネーションや音楽全体を大事にします」

今はどのように練習していますか? 弦楽四重奏では、第1ヴァイオリンがリードする団体も多いと思いますが、皆さんはどのように音楽を作っていくのですか?

山本:「週2回、1回3時間は練習しています。弾いてみて、思ったことを言い合います」
築地:「組み始めたときよりは自分の意見を言えるようになりました(笑)」
三澤:「私は優しすぎるらしくて(笑)。協調性がありすぎるのが、私の良い点でもあり、悪い点でもあります。私は、みんなが弾きやすい環境であればいいと思っています。みんなが弾きたいように弾いているけど、一つの音を作っているみたいになれば」
山本:「誰か一人に合わせるのではなく、4人で弾いていくのが僕らの特徴です」

昨年、クァルテット・インテグラに名前を変えましたね。サントリーホール室内楽アカデミーに参加して、感想はいかがですか?

  • チェンバーミュージック・ガーデン 「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会

    チェンバーミュージック・ガーデン
    「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会」

山本:「グループ名は、磯村先生が考えてくださいました。4人で一緒に作り上げていく僕たちのいいところを表す名前です」
三澤:「今まで弦楽器の先生にしか習う機会がなかったので、練木先生からカルテットのアドバイスをもらうは刺激的です。私たちでは思いつかないようなことも言ってもらえます」
菊野:「室内楽を長年やってこられた先生たちの経験者ならではの空気感を知りたいと思っていました。今まで、内声のヴァイオリン先生に習ったことがなかったので、池田先生が第2ヴァイオリンの弾き方を教えてくださるのはありがたいです」
築地:「アカデミーは、月1回あって、毎回違う曲に取り組んでいくというのは今までなかったことです。いろいろな曲に取り組めて、ファカルティの先生は音楽以外のことも親身になってくださる」
山本:「他のグループがいることは大きい。同世代の演奏を聴き合うことは、すごい刺激です」

  • チェンバーミュージック・ガーデン 「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会

    チェンバーミュージック・ガーデン
    「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会」

グループとして最も思い出に残っていることは何でしょう?

山本:「カルテットを組んで1年目の桐朋の室内楽演奏会は、お披露目的なこともあってとても印象に残っています」
築地:「イタリアのシエナのキジアーナ音楽院での2週間ですね。毎日、ピヒラー先生のレッスンがあり、いろいろな課題が課せられ、怒られて(笑)」
山本:「イタリアではピヒラー先生に毎朝、レッスンを受けました。ピヒラー先生は一番厳しかったですね。厳しさを伝えたかったのでしょう。音程なども完璧でないといけない」
菊野:「僕にとっては、直近の1年間が一番濃いですね。この1年間の合わせですごい経験値を積み重ねている感じがあります。それまでの倍ぐらいのスピードで」
三澤:「私は、私たちだけのちゃんとした初めてのコンサート。山崎先生が若い演奏家のためにプロデュースしてくださった、2017年5月のフィリアホールでのコンサートです。そのとき3曲弾いて、たいへんだったけど、達成感は大きかったですね」

今回、クス・クァルテットのマスタークラスを受けましたね。

  • クス・クァルテットのマスタークラス

    クス・クァルテットのマスタークラス

三澤:「もともと持っている文化が違う、そういうところで私には遠く感じるところもありましたが、これが本物なのかと思えました。一人ひとりが順番にコメントするというレッスンは初めてでした。それぞれが違う意見や意思をもって活動されているのがわかり、私たちも常に違う意見を持つグループでありたいと思いました」
築地:「シューベルトの15番のCDをレッスンのあとに聴いてみましたが、納得する演奏でした。彼らの意志の強さはすごいと思いました」

  • クス・クァルテットのマスタークラス

    クス・クァルテットのマスタークラス

終始、4人の仲の良さが感じられたインタビューだった。6月のチェンバーミュージック・ガーデンではコミュニケーションが十分にとれた心を一にした演奏を聴かせてくれた。今後の活躍を期待したい。