Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

カウボーイ No.1 Recipe 1 Cowboy No.1

メーカーズマーク 2/3
生クリーム 1/3
シュガーシロップ 1tsp.
シェーク/カクテルグラス
十分にシェークしてグラスに注ぐ

カウボーイ No.2 Recipe 2 Cowboy No.2

ティーチャーズ
ハイランド
クリーム
30ml
牛乳 60ml
シュガーシロップ 1tsp.
ビルド/ロックグラス
氷を入れたグラスに材料を注ぎ、ステアする

ロングドライブをつづけたカウボーイ

牧場主や牛の飼育に従事する人をカウボーイと呼ぶ。しかしながらその昔は、牛を駆り集めて遠くの市場まで移送する、ロングドライブという仕事に従事した人たちのことを意味した。

年配の方たちには西部劇ドラマ『ローハイド』の世界、といえばご理解いただけるだろう。アメリカのCBSが制作、放映したもので、日本では1959年から65年までの6年間、サントリー提供でTV放映された。

1870年代のロングドライブとカウボーイの姿を描いたドラマだった。なんといっても主題歌のインパクトが強く、幅広い世代がこの曲を知っていた。若きクリント・イーストウッドが出演していた作品でもある。

さて、そのカウボーイのお話。アメリカの畜産業は17世紀半ば過ぎにはじまる。スペイン領だったメキシコからテキサスに大量の牛が運び込まれた。ここからテキサスが牛の一大生産地となっていく。

ロングドライブのきっかけは、1849年、ゴールドラッシュに湧くカリフォルニアへの牛の移送だった。爆発的な人口急増、食料価格高騰などによって、周辺地域の牛だけでは需要を満たすことができなくなる。そこでテキサスからの大移送が決行されたのだ。

ところがゴールドラッシュに浮かれた期間は長くつづかなかった。さまざまな国から一攫千金を夢見た人々が集まってきたが、金採掘の最盛期は1855年頃までで、次第に状況が落ち着きはじめると供給過剰となっていく。牛の取引価格も割に合わなくなった。

それでも次の市場が見つかった。東部である。テキサスから、鉄道の発達していた北へのロングドライブがはじまる。

ロングドライブに従事したカウボーイは、アメリカの古き良き時代の象徴的職業のひとつといえるだろう。ドラマや映画では美化されている部分が多々あるが、実際は過酷この上ない行程だった。

大隊になると3,000頭以上もの牛の群れを移送した。それを10人ちょっとのカウボーイで成し遂げるのだ。しかも馬と幌馬車での長旅を考慮して、交代馬も含めると何十頭もの馬を引き連れていた。

1日に進む距離が数キロという日もある。順調に進んだとしても20キロ超の移動でしかない。草のある地を目指し、牛に草を食べさせながらの移動だ。夜はもちろん野営であり、監視役も必要となる。風雨の日もある。そんな過酷な日々を繰り返しながら、2,000キロ以上もの旅をつづけたのだ。

ただし、ロングドライブも1890年代に終焉を迎える。

当時、厳寒地では牛の飼育はできないと思われていた。ところが北部の平原での牛の放牧が成功し、厳冬でも牛が過ごせることがわかった。

そして何よりも鉄道網の伸長がある。遅れていたアメリカ南部の鉄道敷設がすすみ、新たな物流システムが構築されていく。カウボーイによるロングドライブは古き良き時代の物語、時代劇のなかで語られることになる。

少量の甘みで味わいが激変

それでは、カクテル「カウボーイ」。アメリカ禁酒法時代(1920-1933)に生まれたカクテルだといわれている。当時はスコッチウイスキーに生クリームをシェークする極めてシンプルなものだった。禁酒法であったから、密輸のスコッチで飲まれたのであろう。

現代アメリカの著名な酒類研究家、ポール・ディクソンがスコッチと生クリームだけの当時のレシピに関して、“terrible drink”(ひどい飲み物)とコメントしているのを知って興味を抱いてしまった。たしかに、恐ろしくひどい味わいなのだ。

カウボーイたちのロングドライブの過酷さをイメージして、わざとこんなレシピにしたのだろうか、と勘ぐってしまう。飲めないものをどうしてつくったのだろうか。何故『The SAVOY Cocktail Book』(1930)に掲載されているのか。ハリー・クラドックは自分でつくって味わってみることはなかったのでは。そしてバーテンダーたちも、客からオーダーされることもなく、意識されることもないカクテルとして今日に至ったのではなかろうか。

現在のカクテルブックの多くのレシピには少量の砂糖が加えられている。早い話、142回「ヘア・オブ・ザ・ドッグ」のハチミツを砂糖に替えたバージョンである。またバーボンウイスキー、あるいは単にウイスキーと記載されている。時の流れのなかで、当然のようにバーボンに落ち着いたようだ。そして生クリームに砂糖の場合はシェーク。牛乳に砂糖のレシピもあり、この場合はビルドである。

クラフトウイスキー「メーカーズマーク」ベースのシェークを味わってみた。砂糖はシュガーシロップに替えた。生クリーム、シュガーシロップとのシェークは、「メーカーズマーク」のふくらみのあるしなやかさとクリーミーな甘さが一体化して、ハチミツ様のニュアンスがある。おかしな表現だが、普通に美味しい。甘みが加わるだけで味わいは激変する。

もうひとつ、ブレンデッドスコッチ「ティーチャーズ」をベースに牛乳、シュガーシロップをオン・ザ・ロックで試してみた。こちらはミルキーな甘さにつづいて、「ティーチャーズ」のスモーキーさというかスパイシーなニュアンスが余韻として浮遊してきて、好感がもてる味わいである。

甘みなしの過酷なロングドライブ的テイストはおすすめしない。少量の甘みを加えた「カウボーイ」を、是非バーで味わっていただきたい。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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