Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ヘア・オブ・ザ・ドッグ Recipe 1 Hair of the Dog

バランタイン
ファイネスト
2/4
生クリーム 1/4
ハチミツ 1/4
シェーク/カクテルグラス
十分にシェークしてグラスに注ぐ

ヘア・オブ・ザ・ドッグ/フローズン Recipe 2 Hair of the Dog/Frozen

バランタイン
ファイネスト
2/4
生クリーム 1/4
ハチミツ 1/4
ブレンダー/デザートグラス
クラッシュド・アイス1カップとともに材料をバー・ブレンダー(ミキサー)でブレンドし、グラスに移し入れる。短いストローを添える

毒を以て毒を制する

素敵な味わいながら、またまた不可解な名前のカクテルを登場させる。前回は「ビーズ・ニーズ」、“ハチの膝”だった。今回はなんと「ヘア・オブ・ザ・ドッグ」、“犬の毛”である。

とはいえ、“ハチの膝”はナンセンスなワードから流行語としてエクセレントの意味に転じたものだった。単純に言葉遊びの世界である。

しかしながら“犬の毛”は古くからの言い伝え、迷信が慣用句として見事に定着したものだ。それもストレートに酒の世界と結びついている。

連載134回で「コープス・リバイバー」(死者をよみがえらせる)という恐ろしい名前のカクテルを紹介した。これはpic me up(気つけ・元気回復)と呼ばれる迎え酒として知られている。そして今回ご紹介するこの「ヘア・オブ・ザ・ドッグ」は、なんと迎え酒そのものを意味する慣用句になっている。

何故に“犬の毛”が迎え酒なのか。

元々はtake a hair of the dog that bit youという使われ方だったものが短縮されたようだ。使われはじめたのはかなり古く、16世紀半ばのスコットランドの文献に登場しているらしい。

狂犬病は死に至る。ワクチン接種がおこなわれている現代の日本で耳にすることは滅多にないが、狂犬病ウイルスに感染した犬や猫、コウモリなどの野生動物に噛まれて発症する。

その昔のスコットランドでは、犬に噛まれたら、その犬の毛を取って揉んで傷口に当てると治る、と信じられていたらしい。

これがなんと酒に転じられてしまったのだ。hangover(二日酔い)のときにはhair of the dogをやればいい、となったのだ。

日本では、毒を以て(もって)毒を制す、という言葉がよく使われる。悪を滅ぼすために、他の悪を用いることを言う。

同じような使われ方として、楔(くさび)を以て楔を抜く、がある。楔を抜くために、別の楔を脇に打ち込んで緩めて抜くことらしいのだが、こちらは喜ばしい結果となる。

どちらかといえば、盗人の番には盗人を使え、に近いか。番をした盗人が役目を終えた後に忍び込んできたら、と考えたら終わりがないような。

酒でダメージを受けたら、やっぱり酒だぜ、hair of the dogをやんなきゃダメじゃん、はまったくもって喜ばしくない。

この迷信はスコティッシュの信念のように生きつづけ、19世紀後半のイギリスの慣用句や寓話に関する書籍にも掲載されているという。こんなふうに何百年と語られつづけたなら、英語圏に広まり、迎え酒の慣用句として定着してしまうのは当然のことだろう。

つまり、「コープス・リバーバー」もhair of the dogのジャンルのひとつといえるのである。そしてまた、人それぞれにhair of the dogがあり、わたしは「ブラッディ・メアリー」がいい、わたしはライトなビールかな、なんて会話を欧米人たちは交わしたりするのだ。

読者の皆さんはそんな会話や行為はおやめいただきたい。適正飲酒をこころがけて、hangoverとならないように気をつけていただきたい。

早い話、スコッチ・ズーム・カクテル

さて、迎え酒という意味のカクテル「ヘア・オブ・ザ・ドッグ」。いまのレシピがいつ生まれ、定着したのかが不明である。材料はスコッチウイスキー、生クリーム、ハチミツの3種。とてもシンプルだ。

不明であるとともに疑問がある。とても気になる。ブランデーベースとして知られている「ズーム・カクテル」をスコッチに代えただけのことではないか。また、連載58回『アルバータ州は美味しい』で紹介した「ウイスキー・ズーム・カクテル」をスコッチベースに指定しただけともいえる。

そこでわたしはいつものように推測した。

あるとき誰かが、「スコッチベースのズーム・カクテルはヘア・オブ・ザ・ドッグに最高だぜ」と言いだした。そしたら周りのみんなも、そうだ、そうだ、と認め、それが広まってカクテル名として定着したのではなかろうか。

だから多くのカクテルブックにブランデーベースの「ズーム・カクテル」とは別に、スコッチウイスキーをベースにした「ヘア・オブ・ザ・ドッグ」が掲載されているのではなかろうか。

このカクテル、「コープス・リバイバー」とともにヨーロッパではよく飲まれている。口当たりがよく、単純に美味しい。迎え酒というよりは、ディナーで満たされたお腹に優しい味わいだ。食後酒としてふさわしい。

ベースのウイスキーは、バランスが良く滑らかなブレンデッド・スコッチの「バランタインファイネスト」を選んでみた。

口にすると、生クリームとハチミツのしなやかな甘さのなかから、「バランタイン」のウイスキー感が柔らかく浮遊してくる。温かみのあるウイスキー感といえよう。

日本でも、もっと人気が高まってほしい。バーテンダーの方々も積極的にすすめていただきたいと願う。

もうひとつ、フローズン・カクテルとして味わうことをおすすめする。こちらは食後のデザート感覚で楽しめる。ハチミツの量の加減で甘さを調整するといい。

フローズンに仕上げるカクテルは暑い季節だけのものではない。デザートにアイスクリームやシャーベットを食べるのと同様、季節に関係なくバーで味わっていただきたい。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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バランタイン ファイネスト
バランタイン ファイネスト

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