Wi' tippenny, we fear nae evil;
Wi' usquabae, we'll face the Devil!
安酒あれば凶事を笑う、
ウイスキー飲めば悪魔と戦う!
"Tam o' Shanter" Robert Burns
そのことは必ずしも正しくない。グレーンウイスキーはほとんど市販されていないが、独特の個性をもち、バラエティーも豊かである。
ALDのグレーンウイスキー蒸溜所はストラスクライドにもあるが、バランタイン社製品に伝統的に使われるシングルグレーン・ウイスキーに関しては、すべて1938年にハイラム・ウォーカー社がダンバートンの造船所跡に建てた蒸溜所でつくられている。ダンバートンで生産されるグレーンウイスキーは贈答用や特別な機会などに、ごくまれにボトリングされるだけだ。コレクターたちには、グレーンのボトルを手に入れるのは大変なことだと考えられている。
ダンバートンの巨大なグレーン蒸溜所の所長アレックス・シンプソン Alex Simpson は、際立った個性をもつ20年ものの記念ボトルをもっている。
「モルトウイスキーにはない明快さがあって、磨き抜かれた味わいだ」と彼は言う。
グレーンウイスキーはたいてい小麦をコフィー式スチルで蒸溜したもので、業界内ではブレンディング用として広く生産されている。だが<バランタイン17年>に使われるグレーンウイスキーは、トウモロコシを主原料とし、コフィー式の原型に改良を加えた連続式スチルを使った独自の製法で蒸溜した、きわめてユニークなウイスキーである。
「うちの工場では、発酵前にウォートからマッシュを取り除く。業界では、一般に行われていないことだ」とアレックスは説明する。
「このこだわりは、ウォートにマッシュを入れたままで発酵させないことで、より澄みきった、軽やかな溜液が得られるという考えからなんだ。ダンバートン工場が完成して以来、一貫してこの方式でやってきたし、さかのぼればハイラム・ウォーカーの時代にたどり着くわが社の伝統なんだよ。ハイラム・ウォーカーは北米の会社だから、原料にトウモロコシを使うのは自然な選択だった」
なにしろ<バランタイン17年>は世界で最も個性的なブレンデッド・ウイスキーのひとつである。個々のウイスキー原酒の製法の一部が特殊なものだからといって、驚くには当たらない。これまでの常識を破るだけでなく、新境地を拓く技術を採用するなど、品質のためならどんなことでもするというのが、ジョージ・バランタインその人にさかのぼるバランタイン社の伝統なのである。
「トウモロコシには小麦とは異なるフレーバーがあり、できあがったウイスキーは、よりさっぱりした味になる」とアレックスは説明する。
「小麦に含まれるような脂質がないから、軽やかなウイスキーになるんだ。小麦から蒸溜した場合にはフェノール成分が多くなる」
<バランタイン17年>に使用される最も重要なグレーンウイスキーには未発芽のトウモロコシを使うが、発酵の口火を切り、酵素の転化を促進するため、ジアスターゼ含有量の多い大麦麦芽も若干加えられる。法律でも、スコッチ・ウイスキーにはすべて一定の割合で大麦麦芽を使うよう定められている。
現在では塔のケーシングの素材は銅となり、グレーンの蒸溜がより正確かつ綿密に行われるようになった。コフィー式のスチルはカリフォルニアのブランデー蒸溜、ジャマイカのライトボディーのラム酒蒸溜にも使われている。
今世紀に入ってからは、グレーン蒸溜所が業界全体で13カ所という状態が長く続いた。需要は相変わらず堅調だったが、合併統合を経て、10年前には8カ所に減った。その大半は、幹線道路や鉄道へのアクセスがよいローランドに位置している。<バランタイン17年>は土台となるグレーンウイスキーを5種類前後使っている。
連続式蒸溜機の長所のひとつはスピードだ。ダンバートンほどの規模のグレーン蒸溜所では、おそらく一部のモルト蒸溜所の年産量を1週間で生産してしまう。
最近ではいろいろな機種が出回っているものの、優れた発明がみなそうであるように、この蒸溜機の構造はあくまで単純だ。モロミ塔は通常、垂直の円筒形で、内部が複数の水平のトレイ(棚)で仕切られている。ウォッシュが沸騰すると、各トレイを通り抜けて塔頂まで蒸気が上がっていく。連続式蒸溜機の構造は、得たいと思う溜液の品質や用途によりバリエーションがある。
ダンバートンで高級グレーンの生産に使っている精溜塔は、伝統的なコフィー式スチルよりトレイの数が50%ほど多い。こうしたことを除けば、アルコールを含んだ液体が塔内を下り、蒸気が上昇していくというスチルの基本原理は、コフィーが開発した当時と変わらない。
「蒸気がトレイの穴から上昇していく際、アルコールを含んだ液体がこれをくぐり抜けようとしてストリップ(放散)現象が起き、アルコールだけが分離される」とアレックス・シンプソンは説明する。
「この気化したアルコール成分がスチルの頂部で取り出され、凝縮して溜液となる。一方で、液体のほうは塔の底部に達するが、この時点でほとんど水になっている」
フォアショットなどのフェインツは捨て、スチルマンの判断で溜液の真ん中だけを取り出すポットスチルと違い、この蒸溜機の場合ははるかに正確に、塔の一定の場所で溜液が採取される。グレーンウイスキーの溜液のアルコール度数は、シングルモルトの67%程度に対して90%前後と高い。
連続式蒸溜機は、精溜塔で“不純物”を除去するレクティフィケーションもずっと効率的だし、燃料もはるかに節約できる。こうした技術革新の反面、できあがったウイスキーはモルトウイスキーより軽やかな仕上がりになる。
ウイスキー通のマイケル・ジャクソンが言うように「スコッチ・ウイスキーには謎が多く、そういう神秘性がスコッチの醍醐味である」のだ。
<バランタイン17年>に使われる若いグレーンウイスキーは蒸溜後、少なくとも17年間、アメリカ製のオーク樽で寝かされ、うっすらと黄金色に色づく。連続蒸溜方式によってどんな土地でも蒸溜が行えるようになったが、熟成の場所選びの重要性は変わらない。
「この問題をめぐっては、長年いろいろと議論されてきた」とアレックス・シンプソンは言う。彼はスペイン、カナダ、メキシコにもウイスキー工場をつくった経験がある。
「私の意見を言わせてもらえば、立地はとても重要だ。ウイスキーは、蒸溜した場所で熟成しなければならない」
「昔はうちでも、ハイランド北部のモルト蒸溜所からスコットランド中央部のベルト地帯までウイスキーを運んで熟成していたが、そうすると仕上がりが微妙に違ってくることに気づいたんだ。そこで、わが社のグレーンウイスキーはすべて、中央部ベルト地帯にある蒸溜所近くで熟成している。むろん、生産量が非常に多いせいもある」
連続式スチルの問題点のひとつは、運転中に損耗をチェックしなければならないことだ。とはいえ、その寿命は驚くほど長い。工場が建てられた1938年に製造されたダンバートンの精溜塔は、1990年に一度だけ交換されている。
ALDは、ストラスクライドにもグレーンウイスキーの工場をもっている。ここでは小麦を原料にし、ダンバートンのようにウォートを分離せず、マッシュを入れたまま発酵を行う“ホール・マッシュ”方式を採用している。
「トウモロコシを使い、ウォートを分離して発酵するダンバートン方式は、業界でも珍しいものなんだ」とアレックスは言う。
「このやり方は上質のウイスキー生産が可能なだけでなく、環境にもやさしい。発酵前にマッシュを除去すれば、放水した廃液の生物学的酸素要求量を減らせるからね。不用になったマッシュや、アルコール成分の蒸発が終わったウォッシュの廃液は、タンパク質含有量27%の乾燥飼料になる。この飼料はとても人気が高いんだ」
ダンバートンのシングルグレーン・ウイスキーは、一貫して<バランタイン17年>の土台を構成してきた。アレックスが注意深く品質管理を行う一方、マスターブレンダーのロバート・ヒックスが伝説的なノージングを通して、自身がブレンディングに求める高度な水準を維持するよう努めている。
ブレンデッド・スコッチの原酒の半分以上は、このグレーンウイスキーが占めていることを考えれば、その品質管理に神経を尖らせるのも無理はない。
このウイスキーは決して無個性なのではないとロバートは強調する。
「フレーバーの強さがちょうどいいんだ。強すぎたら、われわれブレンダーにはありがたくないフレーバーになってしまうからね。ダンバートン工場は完璧なグレーンウイスキーを供給してくれる。つまりスチルから出てきたとき、軽く、さわやかで、わずかに甘みのあるウイスキーだ」
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