O Whisky! soul o' plays an' pranks!
Accept a Bardie's gratefu' thanks!
ああ、ウイスキー! 遊びと悪戯の化身よ!
詩人の心からの讃辞を受けておくれ!
"Scotch Drink" Robert Burns
マスターブレンダーのロバート・ヒックスは、この偉大なるウイスキーの創造過程を優れた油彩画の制作にたとえる。彼の最初の仕事は、下塗りを行って、カンバスを用意することだ。つまり、何種類かの選り抜きのグレーンウイスキーを使って、まず下地をつくる。いわば、香りたちの活躍する舞台である。やがてその上に、次々と絵の具が塗り重ねられていくことになる。
「グレーンウイスキーの特徴はフレーバー総量がごく控えめなこと。そこが、われわれの求める下地用の絵の具としてグレーンウイスキーが理想的な理由だね」と彼は説明する。
「油彩画と同じで、下準備はとても大切だ。カンバスにきちんと下塗り……通常は白か、明るい中間色を幾層も塗り重ねるわけだが、これを丁寧に行わないと、絵の具がうまくのらないし、油彩の特徴も十分に発揮されないよね」
「グレーンウイスキーには、シングルモルト・ウイスキーのような個性はないかもしれない。その代わり、個々のモルトたちをひとつにまとめるという重要な役割を果たしてくれるんだ。また、完成品に与える深みとニュアンスにおいて、モルトウイスキーでは得られない効果を発揮する」
「グレーンウイスキーには微妙なフレーバーがあるので、何種類かを混ぜて、好みの下地をつくりあげるのが一般的だ。たとえば日没を描くとする。下地が純白ではまずい。微妙に他の色を混ぜて、上に彩度の高い絵の具をのせても十分引き立つようにするはずだ」
マスターブレンダーの仕事が一筋縄ではいかないのは、蒸溜所の閉鎖や生産量の変化で、原料となるウイスキーがしばしば変わってしまうからだ。そんなときでも<バランタイン17年>の品質はあくまで維持しなければならない。マスターブレンダーが腕を振るい、予備の原酒でフレーバーを微調整するので、完成品の品質に全く変化はない。
モルト蒸溜所が運命の変転にもてあそばれるたびに、ブレンダーはみな、この問題に直面する。将来の供給状況を見通す能力は、ブレンデッド・スコッチの創造に必須の技術のひとつとなる。
ブレンドに使えるモルト蒸溜所をなるべく多く確保しておけば、ぐっと楽になる。しかしながら、スコットランド中の蒸溜所を自分のものにすることなど誰にもできはしない。そこで、50カ所近いモルト蒸溜所の将来を半世紀も前から予測するわけだが、それは綱渡りと言っていいほどの危険を伴う。
こうした理由から、条件のよいときでも希少な<バランタイン17年>は、たびたび品薄に陥ってきた。モルトの供給が困難な時代には、マスターブレンダーは非常用に確保してある数種のウイスキーを使い、手持ちのモルトやグレーンをやりくりして、できあがったブレンドが少しも変わらぬようにしなければならないのである。
ひとつのブレンドに含まれるシングルモルトやグレーンウイスキーの数は、時代状況や経済環境の影響を受けるため、まず一定することがない。1996年現在、<バランタイン17年>はモルトとグレーンを40種以上含み、これらをひっくるめてブレンドの中核となる個性がつくられているという。
「私の場合はハイランド・ウイスキーを使って、求めるスタイルの大ざっぱなアウトラインを描き上げる。そのあと、スペイサイドやアイラ、アイランドのモルトを絵の具のようにのせていくんだ」
下描きができると、ロバートは2つの主要モルトを使って<バランタイン17年>独自のアウトラインをつくっていく。
「最初は<ミルトンダフ>だ」と彼は言う。
「<ミルトンダフ>は木の実のような、かすかに蜂蜜がかった豊かな香りを与えてくれる。力強い夏の花のような個性もある。香気に厚みがあり、夏の花の香りが匂い立つように強く、全体のトーンを完璧に整えてくれるんだよ」
「次に<グレンバーギー>を加える。かすかなピート香に、ヒースの花の香りも秘めた豊かなウイスキーだ。こうして堅固な下地ができあがったら、それ以外の絵の具を塗り重ねていく番だ」
油彩画の絵の具と同じく、シングルモルトのなかには極端に濃厚で力強いものがあるが、これは軽いタッチで塗らなければいけないし、反対に微妙で繊細なモルトは、また別の使い方をしなければいけない。
「いい絵には、ほとんど黒が使われていないように見える。それでも画家は、わずかに黒を混ぜて、そこかしこにアクセントをつけているんだよ」とロバートは説明する。
「たとえば<アードベッグ>はこの範疇に入るウイスキーだ。これはアイラ・モルトで最もピート香が強く、夏の海岸の匂いと、潮とオゾンの香りがかすかに感じられる。人けのない海岸を歩いていると、海藻と潮風のアロマを感じるだろう。それが<アードベッグ>なんだ。とても力強く、鋭く、激しいので、ごくごく控えめに使うんだ」
「同じように<ラフロイグ>も少量を用いる。このウイスキーはピート香やスモーキーフレーバーが強く、潮の風味とかすかな甘みがある。力強く、鋭く、独特なモルトと言っていいだろう」
「この2銘柄は基調色に含まれる色と言えるだろうね。いずれも節度をもって使うべきで、雑に扱うのは禁物だ」
<アードベッグ>や<ラフロイグ>の力強いタッチの余白は、<バランタイン17年>の中核をなす各種モルトが埋めていく。各種の多彩なモルトが<17年>の個性のさまざまな面をつくりあげていくのだ。この卓越した技によって、ブレンドが成り立っている。
「この作業では、まず<バルブレア>に手が出てしまうことが多い。フルーティーで、かすかな甘みとスパイシーなタッチがあり、アロマに満ちたタイプのウイスキーだからね。デリケートな花の香りをもち、わずかに潮の香りのある<スキャパ>と組み合わせると完璧だ。それと<グレンカダム>。蜂蜜のような口当たりをもち、クリーミーで夏の花やリンゴの香りをかすかに含むモルトだ」
いくつかの強烈な色彩に他の穏やかなモルトたちが加わり、色調が整えられていく。それも、1つ1つの層が塗り重ねられるにつれ、全体の調和がますます高まるように整えられていく。
「とくに<トーモア>の果たす役割は大きい。繊細なボディーをもち、軽く、甘口で、アロマも豊かだ。一般的なスペイサイド・モルトの性格と異なっているが、素晴らしい変わり種だ」とロバートは付け加える。
「<グレントチャーズ>は洋ナシのドロップのようなタッチとかすかな“エステル臭”がある、リッチな味わいのウイスキーだ。エステルは、キャンディータイプのフレーバーのこと。スイカズラの強いタッチをもつ、香り高いモルトだよ」
「それに対して<インペリアル>は荒々しく、こくがあり、ピートやヒースのタッチ、そして秋のような深みが特徴だ。フレーバーに深みがあり、かすかに香気がある」
できあがったブレンドには、蜂蜜の甘さとかすかなスモーキーフレーバーがある。だがその奥深くで、個々のモルトの特異なタッチすべてが、一体となり、各地域の多彩なフレーバーによる豪奢なタペストリーを織り上げている。
「グラスの<バランタイン17年>を嗅いでみれば、今あげてきたウイスキーのさまざまな個性が感じ取れるだろう」とロバートは言う。
「すべてのアロマを完璧にとらえることはできないにしても、根気よくやれば、ひとつずつ層を剥ぎ取って奥へ進んでいくたびに、新しい層が現れてくるはずだよ」
自分の仕事がどんなものかを考えてみたとき、ロバートの頭にはいろいろなイメージが浮かんでくる。さまざまな楽器からなるオーケストラを指揮して、ハーモニーを奏でさせるというイメージ、あるいは無数の絵の具を使って作品を創造するというイメージ……。だが、人生をかけ、情熱を注いでいるブレンドという仕事について、ある強固なイメージが頭から離れないという。
「<バランタイン17年>はグレーンを土台にして、モルトの色調や色彩が加えられるたびに1つ1つ層を重ねて完成に近づき、偉大な美に到達する。それはまるで、貴くて精妙きわまりない真珠のようだ」
そう言うと、ロバート・ヒックスはテイスティング・グラスの琥珀色の液体を嗅ぎながら、目を閉じた。
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