8/24(土)
16:00開演(15:20開場)ブルーローズ(小ホール)
サントリーホール・メンバーズ・クラブ先行発売: | 5月14日(火)10:00〜5月16日(木) |
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一般発売: | 5月17日(金)10:00〜 |
※セット券は一般発売日よりサントリーホールチケットセンター(電話・窓口)、 東京コンサーツ(電話・Web)での取り扱い。
※学生席はサントリーホールチケットセンター(電話・Web・窓口)のみ取り扱い。25歳以下、来場時に学生証要提示、お一人様1枚限り。
写真をクリックすると、プロフィールがご覧いただけます。
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現代音楽は、クラシック音楽からの流れを汲んで理解すべきだ、と思っています
パリを拠点に活躍する永野英樹さんは、「大野セレクションの室内楽」と「テーマ作曲家〈ミカエル・ジャレル〉室内楽」に出演します。永野さんは、現代音楽を世界最高水準で演奏するヴィルトゥオジティ(超絶技巧)集団「アンサンブル・アンテルコンタンポラン」のピアニストとして、四半世紀近い年月を重ねてきました。卓越したテクニックと現代音楽作品に対する深い理解で高い評価を得ている永野さんに、お話を伺いました。
「現代音楽」を演奏することとは
—「現代音楽」に関心をもったきっかけは?
小さい頃から音楽を聴くことが好きで、FMラジオのクラシック音楽番組をよく聴いているうちに20世紀初頭のピアノ音楽を聴くようになったのが、現代音楽に関心が向いたきっかけでした。
東京藝術大学入学後にパリ高等音楽院に留学し、ジャン=クロード・ペヌティエ先生に師事しました。彼はフランス人ではありますがドイツ音楽をよく弾く方で、僕の最初のレッスンはシューマンで、在学中はもっぱらクラシック音楽を勉強していました。当時、先生はパリ音楽院を退職される時期で、別の学校に移った先生を追いかけて5、6年レッスンを受けていたのですが、その最後の時期に20世紀以降のピアノ作品のコンクールを受けるようにと言われて、コンクールに入賞しました。この時が、現代曲だけに取り組んだ最初でした。
—アンサンブル・アンテルコンタンポラン(以下EIC)入団はこのコンクールの後に?
そのコンクールの後は、ショパン国際音楽コンクールを受けたんです。でもうまくいかなくて、パリに帰り、その1か月後にEICのオーディションを受けました。しかしすぐに次の準備をする気持ちにはなれなくて。オーディションの準備期間はかなり短かったです。
—どんなオーディションなのですか?
EICに入る前から思っていることですが、僕は「現代音楽」を19世紀までのクラシック音楽とあたかも別の分野のように考えることが不思議でした。クラシック音楽からの流れを汲んで現代音楽を理解すべきだと、ずっと思ってきました。EIC創設者である故ピエール・ブーレーズもまったく同じ考えでした。なので、EICのピアノ・オーディションには必ずベートーヴェンのソナタが入っています。フランス音楽からはドビュッシー。それとシェーンベルク、ウェーベルン、ベルクから。これが基本で4つ目に20世紀後半からの作品になります。
現代音楽作品には、演奏技術的に無理なものもたくさんあります。作曲家が楽器を弾きながら作曲したというものだけではなくて、頭の中で創り上げた作品も多いですから、そうした楽譜を処理し弾きこなす能力が必要です。となると、基礎が重要になってきますね。こんなことはできないから無茶苦茶でいいや、と演奏してしまえば、聴く側も現代音楽は無茶苦茶なものと捉えてしまうと思います。
アンサンブル・アンテルコンタンポランについて
—スーパーアンサンブルEICのメンバーとは。
1976年に創設され2016年に40周年を迎えました。創立時からは若干人数は増えていますが、基本的には31人のアンサンブルです。あらゆる作品を網羅できるようないい具合の編成になっています。ピアノは3人。ヴァイオリン3人、ヴィオラ、チェロは各2、コントラバスは1人です。管楽器もそれぞれ2人で、ハープは1人、打楽器は3人です。この編成に、音楽監督の指揮者がいます。
—永野さんの前任者であるピエール=ローラン・エマールや、チェロのジャン=ギアン・ケラスが在籍していたなど、EICには名手が多いですね。
ケラスは僕が入団した頃はまだ在籍中で、僕のEICでの最初の室内楽コンサートでドビュッシーの『チェロ・ソナタ』を共演しました。 EICのメンバーは皆、耳がとても良いんですよ。入団当初、最初の合わせで、フルーティストから「何小節目の何拍目って、あなた何弾いている?」と訊かれたことがあります。「ああ一緒の音だわ」って。それぞれは自分のパート譜だけを見て演奏していますが、お互いに誰が何の音を弾いているとか確認しながらリハーサルをしているんです。でも、いまは慣れちゃって、その凄さが分からなくなっているかもしれません(笑)。
—EICでの演奏で、たいへんだと思ったことは?
ピアニストにとって、指揮者に合わせて演奏する機会は稀ですが、アンサンブルのなかだと、指揮についていかなくてはなりません。しかも、ピアノはアンサンブルの端に置かれてしまうので、指揮者との距離が遠く、指揮者からの指示と音を出す間に「時差」が出てしまうのでなおさらたいへんです。また、打鍵するとポンと鳴るピアノとは違って、他の楽器はたいてい音が出るまでに「待ち」がありますから、他の楽器とのタイミングを合わせるのも難しいんですよ。それから、自分が弾いていない間の小節数を数えるのもけっこうたいへんですね。皆さん、小節数を数え間違えて落ちてしまうことってよくあります。
—現代音楽作品を演奏する醍醐味、やりがいとは?
過去の作曲家たちについての研究がなされていても、実際のところは分からないわけですよね。現代音楽だと、作曲家自身や、作曲家が亡くなられていても初演した演奏者やお弟子さんからアドバイスをいただけます。作曲家の欲しているものをそのまま提供できるところは、とてもおもしろいですね。
また、初演でも再演でも、演奏によって作品を評価されるウェイトというか演奏者の責任は、クラシック音楽よりも重いと感じています。
リーム、ジャレルの音楽
—サマーフェスティバルでは、リームの『ビルドニス:アナクレオン』と、ジャレル『エチュード』、『エコ』の室内楽作品4曲に出演されます。
リームにはEICの練習に立ち会っていただいたことがあります。非常にユニークで不思議な作曲家です。彼の音楽はすごくクラシックな感じの部分とそうではない部分があって、とらえどころがなく進んでいくような感じがします。なのに、最終的に全体を眺めるとよくできている。最近、そういう傾向の音楽が多いです。
ジャレルは、書法としてはもう少し現代寄りですが、響きはドビュッシーからのフランス的な流れを汲んでいると思います。「響き」にこだわりのある作曲家ですね。たとえばピアノ・パートでは、指で弦に触れながら鍵盤を弾いて倍音(ハーモニクス)を響かせるといったことをします。指で触れる場所の選び方で出る倍音が変化しますので、その鍵盤の指定まで細かく指示します。また、「三連符の速さから徐々にゆっくりしていけ」とか目安のテンポはあっても各々の感覚で演奏することを指示する部分があって、楽器間の縦線がぴったり合わずに不規則になるようなことをします。そうすると、アンサンブルから独特な響きが生まれてくるのです。
作品タイトルには詩的なものがいくつもありますが、ジャレルの音楽には、詩的な音の響き、音色を追求するという側面があると思います。でもその反面、楽器間の縦線がしっかり合ってバリバリと聴こえてくる部分もあって、そういう部分はブーレーズに近いと思います。
—永野さんがソロで演奏される『エチュード』(2011)は?
純粋にピアノの鍵盤からの音だけの作品です。リスト国際ピアノコンクールの課題曲のために書かれた曲ですから、演奏はたいへんです。以前ジャレルさんは「ピアノはどう書いてよいか分からないんだよ」とおっしゃっていましたから、彼なりに決断して書いた曲なんじゃないでしょうか。今回来日されますから、直接伺ってみたいと思っています。
日本で、ジャレルを今回のようにまとまってとりあげるのは、初めてだと思います。サマーフェスティバルは貴重な場です。室内楽だけでなく管弦楽まで含めて、しかもこれだけの期間をとって音楽祭を開催するという機会は、世界的にも滅多にありません。現代音楽に関わる者として、こうした企画をぜひ続けていただきたいと、お願いしたいです。