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サントリー株式会社
セールスマーケティング 営業推進本部濱田温人 -
サントリーウエルネス株式会社
DX推進部浅井優実 -
サントリー株式会社
栃木 梓の森工場 中味部門日下部暖 -
サントリープロダクツ株式会社
多摩川工場 工務部門高木龍
サントリーグループでは、2024年から若手社員向けの新たな海外研修プログラムを始動しました。このプログラムでは、インドネシア(バリ島)における10日間の研修を通して、入社2年目の全社員が環境問題や社会課題への理解を深め、文化の多様性を直接体感し、グローバルな視点を育むことを目指しています。また海外の地で社会課題に触れることで、世界全体のサステナビリティと社会への責任感を深め、それを業務にどう生かしていくかについて考える機会を提供しています。この経験が社員たちにどのような影響を与えたのか、その変化と学びに焦点を当ててご紹介します。
※研修内容・社員の所属は2024年取材当時のものです。
社会課題を目の当たりにして感じた
サントリアンとしての自覚と責任
研修ではどのようなことが印象的でしたか?
高木
バリに到着した翌日、Suwung(スオン)と呼ばれるスラムのゴミ山を訪問したのですが、いきなり衝撃を受けました。ゴミ山が存在することは知識として知ってはいたものの、やはり実際に目にすると、果てしなく続くゴミとそこに住みながら仕事場にしている人たちの姿に言葉を失いましたね。
またバリでは水不足も大きな問題になっているのですが、観光業が島の大きな収益源である一方、地下水の多くがリゾートエリアで使われるため、現地の人々は水不足に悩まされている。そんな話を研修で聞き、シャワーを最低限にするなど、自分ができることを意識するようになりました。
日下部
Suwung(スオン)では、同じように見えるゴミでもよく見ると少しきれいに分別されている場所があるんです。そしてそこにあるものはゴミではなく、資源として売ったり再利用するということでした。ゴミとされているモノをゴミ(-)とするか、資源(+)とするか。ゴミも人間の考え方次第で+の要素になるのだということを考えさせられました。
浅井
研修では様々なプログラムがありましたが、やはりゴミに関する内容が一番インパクトがありました。過去、日本でもインドネシアに使用済みプラスチックを輸出していたと聞き、驚きましたね。使用済みプラスチックを輸出しているのは日本以外にもあるのでしょうが・・・・。自国で使用したものはやはり自国内で処理すべきだと思います。もしかすると目の前のSuwung(スオン)にも、別の国から持ち込まれたものがあるかもしれない※1、そう考えた時、各処理場にどれくらいキャパがあり、どのようにゴミを割り振れば処理し切れるかといったことをアプリで制御できるようになれば良いなと思いました。
濱田
浅井さんの言うとおり、研修では使用済みプラスチックなどの問題を目の当たりにし、社会課題を私たちが主体的に解決していかなければいけないことを痛感しました。ゴミ問題以外にも、社会課題に挑む起業家の話を聞いたり、NGOの取り組みを体感したりすることで、その思いはさらに強まりましたね。
浅井
今回の研修では「社会課題の自分事化」が目的の一つだと思うのですが、その点では無償医療を24時間365日提供する助産院「ブミセハット国際助産院」※2への訪問は、いろいろなことを考えるきっかけになりました。金銭的に恵まれない環境や医師・助産師不足の地域で母子の命を救うだけでなく、命の尊厳を守りながら自然な出産を支援する姿勢は、私たちも見失いつつある「人の本質」に迫るものだと感じました。ここへは支援が必要な方のほかに、この想いに共感した様々な方が世界中から出産に訪れるそうです。自分に何ができるか、何をすべきか。そして自分も子を持つというタイミングが来たら、どうしたいのかを改めて考えさせられましたね。
※1 2024年現在、インドネシアはゴミの輸入を禁止している
※2 ブミセハット国際助産院の詳細 https://bumisehat.org/?lang=ja
現地での学びで
社会課題が「自分事」に
社会課題への意識がかなり
高まったようですね。
実際研修で得た経験や知見は、
ご自身の考え方や行動に
どう影響したのでしょうか。
日下部
私の仕事は商品の中味をつくることなので、「おいしさ」を追求するのは当たり前だと考えています。「おいしさ」は「良い原料」が前提になっているものが多いのですが、それらの原料が地球環境にどのような影響を与えるものなのかを意識するようになりました。またおいしさを追求する上で製造工程に無駄な環境への負荷がないよう、おいしさと環境への配慮を両立させるための技術を進化・発展させたいと思っています。
高木
私の場合、普段から製造拠点のサステナビリティ推進に携わっているので、今回の研修プログラムには日頃の業務に直結する内容が多かったと思います。
中長期の省水プロジェクトや事業横断のデータ解析によるプロセスへの先端技術導入プロジェクトを担当していますが、常にコストメリットとの兼ね合いで、実現に至らないものも少なくありません。それでも以前より各プロジェクトの課題を自分事化し、熱意を持って考えられるようになりました。またSuwung(スオン)での経験は、その根幹にある課題が何か、そして課題解決の方向を「どこから」「どのように」「どうやって」持っていくべきかなどサプライチェーン全体で考えるようになったり、従来は廃棄していたものに付加価値をつけることができないかを考えるようになったりと、自分自身の意識に大きな変化をもたらしてくれました。
日下部
私も工場に勤務しているので省水の重要性は日頃から認識しているのですが、今回の研修でその重要性をより強く感じるようになりました。これまでは漠然と「水の節約=環境に良い」と考えていたのですが、研修後は「本当に必要だからやる」「自分がやるんだ」と考えるようになりました。サステナブルが特別なことではなく、人として、企業として、当たり前のことと位置づけていきたいと思っています。
濱田
私は「真実を知る・体験することの重要性」を体感し、帰国後はそれが仕事上の一つの軸になっています。大学時代に社会課題を学んだことはあったのですが、実際問題になっている現場を見たことはありませんでした。今回現地の子どもたちの教育現場やゴミ山・水問題などをインプットしながら現地の人々とコミュニケーションを図ることで、「何とかしたい」という強い思いが湧きました。事実を知るだけでなく、自分で見て体感することで当事者意識が強まり、意識や行動が変わっていくことを感じましたね。
浅井
今回の研修を通じて、参加メンバー全員が「不都合な真実」を目の当たりにしたことを強く実感したように思います。私は自分の無知さを思い知ると同時に、帰国後はこれまで当たり前だったことがとても贅沢に感じるようになりました。現代の私たちの生活は便利で恵まれていると思いますが、「人生の豊かさ」や「日々の満足度」を考えると、自分よりクレチュン 村の人々の方が輝いて見えたというのが正直なところ。自分の考え方一つで、物事や人生に対するモチベーションが変わるんだと考えるようになりました。
クレチュン村で感じた
本質的な「人間の生命の輝き」
サントリーのパーパスでもある
「人間の生命の輝き」を、
クレチュン 村の人々から感じられたのですね。
日下部
私もクレチュン村の子どもたちがとてもイキイキとしていたことが印象的で、一緒に遊ぶのは本当に楽しかったです。言葉は通じなくても、表情やボディランゲージで十分伝わりましたし、「嬉しい」などの感情は、私たちの表情から感じ取ってくれました。表情やジェスチャーで素直に気持ちを表現することの大切さを感じましたね。もちろん時には翻訳アプリも活躍しましたが(笑)。
浅井
現地の皆さんは基本インドネシア語なので、英語は通じません。研修では現地のホストファミリー宅に宿泊したのですが、私は日下部さんと同じホストファミリーで、言語での説明が必要な時は私が日本語からインドネシア語、日下部さんがインドネシア語から日本語へというように翻訳アプリをフル活用しました。ジェスチャーやアプリでのやりとりを通じて、クレチュン村の人々は物質的には豊かでなくても、彼らの持つ純粋な生きる喜びやコミュニティへの深い絆が、人生を満ち足りたものにしている、そんなことを感じましたね。
濱田
個人的には、言葉が通じないからこそ本質的な部分でコミュニケーションを取ることができたことがよかったですね。僕のホストファミリーは農業を営まれていて、畑仕事をしているお父さんと互いに野菜を指しながらそれぞれの呼び方を教えあったりしていたのですが、ちょっとした行き違いで少し不穏な雰囲気になったことも。そんな時も言葉が通じないからこそ、相手にどうやったら自分の言いたいことが伝わるかを必死に考え、人とのコミュニケーションには言葉以上に大切なことがあると気づかされました。
高木
本当に非言語コミュニケーションの重要性に気づかされたホームステイでしたね。私のところはWi-Fiが無い家だったので、アプリは使えず、ほとんどボディランゲージで乗り切りました(笑)。見ず知らずの私たちを受け入れてくれる皆さんの心の広さに感動しましたし、私たちとの出会いを本当に楽しんでくださって。人生が輝くきっかけが身近にあることや、周囲へ感謝を忘れないというメッセージをクレチュン村の皆さんから受け取った気がします。
インドネシアでの研修を終えて
見据える未来とは
インドネシアでの経験を、
今度どのように活かしていきたいですか?
濱田
私は非言語コミュニケーションや異文化を通して、人と人の自然なつながりを感じる、「本能的な感動」を得ることができました。自分もこんなふうに誰かの心を揺さぶり、何かを成し遂げたい、そんな思いが強くなりました。「誰」に対し「何」を成し遂げていくのか、常に自問自答しながら信念を持って仕事に取り組んでいきたいですね。
またクレチュン村の皆さんの生き様や、社会課題の解決に最前線で取り組む方々を目の当たりにして、「信念を持ってやり続けることの美しさ」を再認識しました。自分も美しいと思えること、それを目指す志を大事にしたいです。
高木
今回の研修は初めて見たり体験したりするものばかりで、経験値としてかけがえのないものになりました。物質的には豊かとはいえない中で自分の軸をしっかり持ち、地域やコミュニティを大切にしながら明るく暮らしている人々と触れ合うことで、自分の軸を持って生きていくことの大切さを改めて学びました。
またこれだけの同期メンバーと一度に寝食を共にできたことも、互いの考えや今後のビジョンをシェアするまたとない機会となり、非常に有意義でした。
浅井
一人の行動や小さな出来事の積み重ねが大きな社会課題につながることを学び、「自分がやりたいこと」の軸は持ちつつも、同時に社会課題に対して「自分がやるべきこと」を意識するようになりました。そして今まで以上に、「今までやったことのないことに挑戦してみよう」「まずはやってみよう」と、行動へ移すスピードが早くなったと思います。
自分の価値観や生活が世界の中では当たり前ではないという事実を受け止め、本質的な心の豊かさを実現できるようなサービス開発や働き方、生き方を目指していきたいですね。
日下部
以前は社会課題を知りつつもどこか他人事に感じていましたが、この研修を受けてからは、当事者意識を強く持つようになりました。多くの人に届く商品を作るという立場は、その工程や原料などの選択により、社会課題の解決に貢献することができます。自分の選択のしわ寄せが、今回のインドネシアのように不都合な真実として世界のどこかへいくようなことがなく、かつおいしさも妥協する必要が無くなるよう、技術の力でおいしさとサステナビリティを両立させたい。そして海外へ身を置きながら学び続け、常に自分を客観的に見つめて視野を広げていきたいと考えています。
研修プログラム開発者の声
サントリーホールディングス株式会社
人財戦略本部 サントリー大学
堅田さゆり
サントリーグループでは、「世界で最も信頼され、愛されるオンリーワンの食品酒類総合企業」を目指すために、社員が若いうちからグローバルな視座を持ち、社会課題を理解することが重要だと考えています。その考えのもと、新人研修の一環として、2024年からGlobal Value研修を導入しました。
この研修は「日本とは異なる文化の多様性を体感し、グローバル意識を醸成する」「海外の社会課題の現場を体験し、サントリーとしてサステナビリティ・社会課題にどう取り組むべきかを自分事として考える」ことを目的としています。インドネシアのバリ島で、環境問題や貧困問題などに関わるサステナブルな取り組みを体感し、現地の人々とのコミュニケーションを通じて国際感覚を養い、「利益三分主義」への理解を深く考えていく場となります。