Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

レブヒート

ラ イーナ 45ml
7up 適量
ビルド
氷を入れたタンブラー
材料をよく冷やす
ミントの葉を飾る

バンブー

ラ イーナ 2/3
ドライベルモット 1/3
オレンジビターズ 1dash
ステア/カクテルグラス

陽気にはしゃぐカクテル

スペイン、アンダルシア州カディス県はフラメンコとシェリー酒で知られる。

南に位置し、地中海、ジブラルタル海峡、大西洋を臨み、カディス、サンルーカル・デ・バラメーダという古くから海上交通の要所となった良港を持つ街がある。シェリーの積み出し港として有名だし、どちらもコロンブスが西インド諸島に向かって旅立った港だ。とくにサンルーカルの港はマゼランの世界一周の出港地として、さらには17世紀江戸時代、慶長遣欧使節団がメキシコ、キューバ経由で到着した場所でもある。

しかしながら州都は内陸部のセビージャ(セビリア)である。この街はグアダルキビル川によって海とつながっており、中世は貿易都市として繁栄したが、船が大型化した19世紀に入ると海外交易の面では衰退していった。それでもいまなお港湾都市として、またスペイン南部の政治経済、文化の中心地でありつづけている。

支倉常長らの使節団はサンルーカルからセビージャ、そしてマドリードへ向かいエスパーニャ国王に謁見、ここでカトリックの洗礼を受ける。次にローマのバチカンまで旅をして教皇に謁見し、再びセビージャに戻り、日本への帰路へついている。使節団はセビージャにはとくに長く滞在し、そのまま現地に留まった仙台藩士もいたため、近隣には現在でもその末裔といわれるハポン(Japón/日本)姓の人たちがいて、日本人にとっては親しみの湧く地でもある。



ではそんなセビージャの春祭りで飲まれるシェリーをベースにしたカクテルを紹介しよう。「レブヒート」(Rebujito)。これはバルといった酒場であらたまってオーダーするようなドリンクではない。祭りの喧噪の中、夜通し飲んで浮かれるのにふさわしい軽やかな味わいだ。

4月におこなわれるセビージャの春祭り(Feria de Abril/4月の市)は、バレンシアの火祭り、バンブローナの牛追い祭りとともにスペインの3大祭りに数えられている。キリスト教の復活祭から2週間後くらいに開かれるこの春祭りは、本来は牧畜をはじめとした農業の活性化を意図したものだったらしい。いまでは1000以上ものカセタという大きなテント小屋が建ち並び、6日間飲んで、語って、踊って陽気にはしゃぎまわる。

ドリンクの主役が「レブヒート」。割ったもの、という意味らしい。つくり方は簡単で、シェリーは辛口タイプのフィノを使い、すっきりとした風味の炭酸清涼飲料水を注ぐだけ。甘いな、と感じたらミントやレモンなどを加えればよい。実はこちらのほうもマンサニージャというフィノに比べてやや繊細なサンルーカル・デ・バラメーダ特産のシェリーを使うのが正統だったようなのだが、いまではあまりこだわりがなくなったと聞く。

シェリーはカディス県に属する前出のサンルーカル、そしてエル・プエルト・デ・サンタ・マリーアとヘレス・デ・ラ・フロンテーラ、さらにその周辺認定地域だけでつくられるものだ。いまわたしはヘレス・デ・ラ・フロンテーラを代表するフィノ「ラ イーナ」を好んでいる。フラメンコの本場でもあるこの地らしい、シャープで樽香が爽やかなミディアムドライな味わいで、食前、食中のストレートがいいが、ときに「レブヒート」にしてみる。

船で旅したカクテル

シェリーは日本の港とも馴染み深い。場所は横浜。日本生まれで初めて世界的なスタンダードになったカクテル「バンブー」はシェリーベースである。

1873年(明治6)に横浜海岸通りに開業したグランドホテル(関東大震災の被害で廃業。現在のホテルニューグランドとの継承関係はない)は、1890年(明治23)にサンフランシスコからイギリス人のルイス・エッピンガーを支配人として招いた。カクテルに精通していた彼は、まず「アドニス」をアメリカからもたらす。これはドライシェリーとスウィートベルモットの2対1にオレンジビターズ1ダッシュというレシピである。

さらに彼は「アドニス」のスウィートベルモットをドライベルモットに改良したサービスもする。これが評判を生んだ。クセのないすっきりとした辛口がしなやかな竹のようだということで「バンブー」と命名されたと伝えられている。

時は豪華客船による旅のブームを迎えようとしていた。横浜のグランドホテルで口にした船客、航海士たちによって香港、マカオ、シンガポール、マドラスへと「バンブー」は紹介され、やがてヨーロッパへ、1910年頃にはニューヨークでもパーフェクトな食前酒として好まれるようになっていたという。

「バンブー」の伝播は、かつてカクテルが船で旅をしたことを物語っている。船でしか大陸間を結ぶ交通手段がなかった時代、船と港町のホテルや酒場が重要な役割を果たした。豪華客船のバーから生まれたカクテルもあるだろうが、レシピが港、港に伝わり、やがて内陸の都市の酒場へと知られて秀逸なものが定着し、それがどこかのバーの、あるいはバーテンダーのカクテルブックに掲載され、スタンダードになっていったのだ。



さて、今回は「バンブー」の紹介で幕を下ろすことにする。シェリーという酒は語りだすときりがないのだ。いずれはイギリスとの深い関係を書こうと思う。シェリーの最輸入国はイギリスである。

(「ライーナ」は現在取り扱っていません)

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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