2023年4月22日(土)~6月25日(日)
※各作品の出品期間は、出品作品リスト(PDF) をご参照ください。
※作品保護のため、会期中展示替を行います。
※本展では一部の作品に限り撮影可能です。詳細は会場の案内をご覧ください。
※展覧会会場では、章と作品の順番が前後する場合があります。
吹きガラスは紀元前1世紀中頃、ローマ帝国下の東地中海沿岸域に始まると考えられています。初期の吹きガラスには、石や金属の器を思わせる色づかいやシャープな形をみることができますが、次第に、型を使わずに成形されたやわらかく、のびやかな造形がみられるようになります。重力や遠心力を活かした自然な曲線美をもつ形と、それを彩る飴細工のような大らかでのびのびとした装飾は、ローマ時代の吹きガラスの魅力です。
本章では、ローマ時代に作られたさまざまな吹きガラス作品をご紹介します。この時代にはまだ道具が限られていたこともあり、よく見ると制作にかかわる痕跡を作品の至る所に見出すことができます。こうした痕跡を通じて、2000年近く昔の吹きガラス職人の手の動きを想像しながらご覧ください。
また、「二連瓶」や「四連瓶」と呼ばれる独特な形態をもつ作品群に注目し、最新の研究成果をもとに、その技の秘密に迫ります。
熔解炉で熔かした熱いガラスを成形・加工することをホットワークといいます。ホットワークによる表現は、15~17世紀頃のイタリア、ヴェネチアにおいてひとつの頂点に達したといっても過言ではないでしょう。
この時期のヴェネチアの吹きガラスは、美しく澄んだ素材、洗練された優美な形、そしてホットワークによる複雑かつ繊細で立体的な装飾をもち、高級品としてヨーロッパのガラス市場を独占しました。16世紀に発展したレース・ガラスは、ホットワークを極めたヴェネチアの職人の発想力と創造力の賜物です。その影響は大きく、同時期のヨーロッパ各地でヴェネチア様式の作品が作られただけでなく、現代のガラス作家にもその技が引き継がれています。
本章では、16~19世紀にかけてヴェネチアおよび周辺地域で作られた吹きガラスの名品とともに、ヴェネチアの技を独自の表現に昇華した現代ガラス作家4名の作品をご紹介します。作家とコラボレーションした「作家目線の見どころ解説」とあわせ、まるで魔法のようなホットワークの妙技をお楽しみください。
東アジアにおける吹きガラスの生産は、5世紀頃に西方からの影響のもとで始まったとみられています。しかし、西方のものに比べると、東アジアの吹きガラスは概して小さく薄手で、ホットワークによる装飾も少なく、素朴なつくりをしています。実は、近代より前に東アジアで行われた吹きガラスの工程は、西方のそれとは異なるものでした。とくに、口の成形に必要なポンテと呼ばれる道具を使用しないこと、厚く大きな器を作るために欠かせない徐冷を行う本格的な設備がなかったことは、吹きガラスの表現に制約をもたらしました。
しかし、この制約のもとで作られたからこそ、東アジアならではの吹きガラスの造形が生まれました。そこには、素朴な愛らしさや儚げな美しさといった、西方とは異なる情趣があります。
本章では、おおよそ12~19世紀までの東アジアで作られた吹きガラスを、日本に伝わる作品を通してご紹介します。また、本展にあわせて実施した当館所蔵《藍色ちろり》の技法研究の成果をもとに、江戸時代の吹きガラス職人の技に迫ります。
明治時代に入ると、日本でも近代的なガラス産業の道が拓かれます。ヨーロッパから招いた技術者の指導のもと、大規模な熔解炉を用いた複数名の流れ作業による製作スタイルが導入され、西洋式の道具や製法も伝授されました。その導入初期に重要な役割を果たしたのが品川硝子製造所です。ここで学んだ伝習生たちは、後に各地にガラス工場を開き、今日に至るガラス産業の発展に貢献しました。
明治時代末頃から昭和時代初期にかけて作られた氷コップ(かき氷入れ)にみられる多様な装飾技法は、西洋から伝えられた技術が国内において習熟したことを物語っています。それだけでなく、あぶり出し技法による日本の伝統文様の表現などは、西洋技術を日本風にアレンジした試みといえるでしょう。バリエーション豊かな氷コップは、機械化以前の、手吹きによるガラス生産の最盛期の様子を伝えてくれます。
本章では、氷コップを中心に、明治時代以降の日本で作られた吹きガラスをご覧いただきます。また、現在も手吹きによる生産を続けている企業3社の製品とともに、産業としての吹きガラスの未来を感じさせる各社の取り組みをご紹介します。
産業としての吹きガラスの流れと並行して、20世紀以降には芸術表現の手法としての吹きガラスの存在も見逃せません。器などの実用品の生産に用いられてきた伝統的な技法や方法に捉われることなく、熱く熔けたガラスを「吹いて膨らませる」という吹きガラスの基本を活かした新しい造形表現への挑戦が、現在進行形で進んでいます。
本章では、新進気鋭の若手作家4名の作品をご紹介します。「これも吹きガラス?」と思うような作品を通じ、吹きガラスのさらなる可能性をご覧ください。
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