「黒丸」は、昔では到底つくれなかった焼酎だと思います。昭和50年代の焼酎ブームで、芋焼酎が注目されますが、においが嫌われ、すぐに見向きもされなくなりました。その原因は、芋の鮮度にありました。当時は傷んだ芋でも削って使っていたので、芋自体に成分が残っているわけです。それが、臭みの原因でした。これではいけないと、農家から集荷業者も含めて意識を変えようと働きかけ、芋を掘る量や管理を徹底しました。今では掘った翌日には仕入れ、その日のうちに仕込んで在庫は持たない。二十年かかって改善して、ようやく芋本来の香りが楽しめる焼酎ができるようになりました。
このような経緯もあり、芋を仕入れる農家は完全に契約制です。ちょっとでも質が悪ければ返品します。「黒丸」の原料には黄金千貫という品種を100%使っています。他にもいろいろな品種がありますが、黄金千貫は芋らしい風味があり、しっかりとした味わいもある。それが主張し過ぎることなく、食事の邪魔をしない。考え合わせると、サントリーと新たに開発する焼酎の芋は、黄金千貫以外考えられませんでした。なかでも、おいしいといわれる300グラム~400グラム程度の中ぐらいの芋を中心に、一本一本、人の手で傷みがないかを選別して、それを原料として使っています。
焼酎づくりでいうと、もろみをつくる麹も大切な要素です。もととなる米は、国産米を使用しています。タイ米でつくる蔵元さんも多いようですが、やはり国産米だとおいしくなるわけです。芋5に対して麹1の使用量なので影響は出にくいといえますが、確かに風味の違いが生まれます。それと外国産は作り手の顔が見えないので、安全と安心を考えると、国産米になります。水も安全に使える上水を使っています。もともとこの辺りの水は、消臭や調湿作用があるといわれているシラス台地で天然濾過された水です。だから、上水でも、安心な上においしいわけですね。
今回、新たな試みとしてサントリーとのコラボレーションで「黒丸」をつくりましたが、今までの芋焼酎とはまったく違うものができたと感じています。私たちは、どうしても芋焼酎は「こうである」という思いがあって、カタチができあがっています。そこに、サントリーの視野の広さ、独自の視点が加わることで、とてもいいカタチで新しい芋焼酎を生むことができました。中味もさることながらボトルのデザインも都会的で、これまでなかった新しさがあります。もちろん、大変なこともありましたが、いざ「黒丸」ができてみると、つくり手としても、やった甲斐があるなと、つくづく思います。