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可能性を探る
奥村 圭二郎さん
財務担当

奥村さんは、都内の大学の演劇科で、劇場運営やプロデュースを学んでいた。大学卒業の頃、TAPの企画・運営を通じて、現場で「アートマネージメント」を学ぶ「TAP塾」を知り、興味を持った。

以来、都内の劇場職員などをしながらずっとTAPに携わっていたが、NPO法人化にともない、TAPに専念することにした。アートプロジェクトに携わる魅力は、展覧会や芝居を見に行く、といった形ではないアートのあり方を提示出来ることだという。生活に近い場所で、あるいはこれまで想像もしなかった瞬間に、アートを感じるようにできないかと奥村さんは考えている。「TAPに夢を持っている」という。

アートプロジェクトは、体系的なものもまだなく、何が目的で何が成果かということも定まっていません。でも、その見えづらい部分に可能性を感じます。

そうした可能性を探るのに、取手で続けることにはメリットがあるという。ここには同世代のアーティストや他地域のプロジェクトに関わるマネージャーが多く住む。日常の風景の中に、アーティストたちの制作や、変わった催しがあるのは、取手の魅力だ。これを大いに活用することで、独自のことができるのではないかと期待を持っている。

今、全国にアートプロジェクトはたくさんありますが、TAPは他とは違う何かができるんじゃないかという予感があります。たとえば、今までにないようなアートセンターになりえるんじゃないかとか、世界から人がくるような国際展ができるんじゃないかとか。今は、そのための土壌を作っている段階でしょうか。

自分の役割
平野 麻子さん
総務担当

平野さんは、取手から常磐線で20分の距離の千葉県流山市に住んでいる。大学卒業後、毎日終電で帰る会社勤めの日々の中で、何か違うことがしたいと思っていたところ、TAPを知り、2007年から週末を中心に参加するようになった。現在は主に総務を担当している。

TAPには、やめられない何かがあると思っています。活動の輪の中にいると楽しくて、やりたい気持ちが自然とわいてくる。

一時期TAPと自身の仕事の両立であまりに忙しく、TAPを休むことも考えたそうだが、「関わり方を変えれば続けられる。離れない方が良い」と他のスタッフに助言され、ひとまずやめずに、続けてみることにした。

それから、TAPの中で裏方に回ったそうだ。制作現場で走り回り、アーティストの発想を形にする手伝いをじかにすることは少なくなったものの、イベント前に雑然としてしまう事務所を片付け、皆が動きやすそうに仕事をするのを見るのはうれしいと言う。また、事務所に立ち寄る市民の人たちとの何気ない会話も楽しみの一つになった。市民の人たちには、料理やお花など、暮らしの中でずっと続けているものや得意なことを、何かに活かしたいという積極的な姿勢がある。そこに表現の意欲を感じるそうだ。こういう人たちが、アーティストと一緒に何かを作ったらどうなるだろうと考えるという。

アートプロジェクトは、アーティストもそうでない人も一緒に手を動かしたり、アイディアを出したり、色々な人が様々に関わることができる。平野さんは自分の役割を探りながら、できることを続けている。

アーティストとともに
羽原 康恵さん
事務局長

高知県出身の羽原さんは、転勤族の両親のもとに育った。茨城県内の大学に在学中、修論の調査先にTAPを選び、2年間インターンをした。2年目は取手に移り住み、「参与観察と言いながら、TAPにどっぷり漬かっていた」というくらい、TAPにはまっていたという。卒業後は静岡に就職したが、結婚、出産を経て退職し、ご主人の実家が茨城県だったこともあり、家族で取手に戻ってきた。2009年からTAPの活動に復帰し、中心メンバーとして運営に参加している。

羽原さんいわく、アートは「感覚や価値観を広げるきっかけ」であり、アートプロジェクトはそれに出会う場だ。アートプロジェクトを通して、様々な人がアートに触れ、普段出会わないような人との出会いによって、思いもよらないものが生まれるのが面白いと感じている。何より、羽原さんはそうしたきっかけを作り出すアーティストと接することが好きだという。「時折びりびりするほどの正念場だったり、鋭敏なコミュニケーションが必要になる」というが、それが楽しいそうだ。「彼らは生きることに対して実直で真剣」で、これからもそういう人たちと新しいものを生み出すことに、力を注ぎたいと思っている。

TAPを始めた当時、市民にとってアートは訳のわからない存在だったが、最近では、漬物屋さんや酒屋さんが店の中にギャラリーを開いたり、アーティストが作った法被を誇らしげに商店街の人が身につけていたり、街のあちこちに、アートが入り込んで、馴染んでいるのを見る。こうした状況は、長年アートプロジェクトを行なってきたからこそ生まれたものだ。これをどう活かしていくか、そこに自分たちの仕事があると考えている。

取手は積極的に活動している人は多いが、私たちも含めて、きちんと横とつながっていない。それぞれがつながれば、まち全体が動くくらいのエネルギーは個々人で持っている。だからそれをうまく連動させる仕組みを、作りたいと思っています。

熊倉純子さん(実施本部長)
事務局の3人

取手アートプロジェクトの実施本部長であり、東京藝術大学教授の熊倉純子さんは、運営方針を決める責任者であり、事務局メンバーの相談役となっている。他のアートプロジェクトや文化政策に関する審議委員なども務め、広い視野で今後のアートの動向を探っている。熊倉さんは、若いメンバーたちは、現場の様々なアイディアを拾って形にするデザイン力はまだまだと言うが、提案に共感し、同じ思いで動けているという。また、TAP塾の卒業生たちも「良い感じに(全国の)まちに転がって」いて、他地域のプロジェクトの中や近くで関わることが多いそうだ。

熊倉さんは、アートNPOは小さくても「まちの知性と感性のエンジン」になれるという。今や全国で数多く行なわれているアートプロジェクトの中で、TAPは”老舗”ともいえる存在だった。だが、予算の削減が決まり、規模を縮小しても同じ形式でやるのか、アーティストを招いて作品を作ってもらうことの意味など、皆で話し合ったという。活動をやめるという案もあったそうだが、通年で様々なプロジェクトを行なうNPOとして活動を続けていこうと決めた。

熊倉さんは、将来取手を、どこの国のアーティストも知っている、聞いたことがあるような場所にしたいと考えている。それは、大きなイベントをして知名度を上げるのではなく、新しいこと、面白いことに挑戦できる場所として、知られるようにしたいということだ。そのために、これからの活動は、アーティストと色々なことに関心のある市民が、同じ立場で協働できる実践の場となるようにしたいという。チャレンジは始まったばかりである。

2011年2月取材:高嶋麻衣子

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