活動詳細
茨城県 取手市 2007年受賞
取手アートプロジェクト
市民・大学・行政が一体となった現代アートによる街づくり
代表:宮田 亮平 氏
2007年8月更新
高度経済成長期に東京40km圏のベッドタウンとして発展した取手市も、1990年代には若者の都心回帰や隣接守谷市の発展のあおりを受けて人口が微減に転じ、市民も行政も新たな活力源を模索していた。1999年、東京芸術大学取手キャンパスに先端芸術表現科が新設され、取手市は取手駅東口駅前区画整備事業で新しくなった歩道脇に展示する彫刻などの作品制作を同科に依頼した。同科ではこの依頼を受ける一方、より継続的で市民を巻き込んだアートプロジェクトを逆提案した。他方、それまで活動していたいくつかの市民グループもこれに共鳴し、ここに市民、大学、行政が三位一体となった「取手アートプロジェクト」(通称TAP)が発足した。
TAPは、全国公募の野外アート展と地元作家のアトリエを公開するオープンスタジオを主な活動とし、それぞれ交互に隔年で、毎年秋、半月間の会期で行われる。毎年、身近な生活環境に着目したテーマが設定され、取手競輪に因んだ放置自転車、かつて利根川の氾濫時に用いられた川舟、旧茨城県学生寮の跡地、廃墟となっていた下水の終末処理場など、取手市に関わるユニークなモチーフがその都度選ばれてきた。
会期中はメイン会場のほかに市内各所でワークショップやイベントが開催され、取手の街全体がアートの空間となる。そんなイベントを支えるのは、市民ボランティア、大学職員・学生、市職員などで構成される運営スタッフで、日頃から意見やアイディアを交換し合い、月2回の運営会議では侃々諤々の議論を交えながら物事を進めていく。TAPでは、参加者全員がアーティストとともに作品や展覧会を作り上げるプロセスを共有するのだが、それに共感した若者が東京都をはじめ県外からも大勢集まり、スタッフやインターン(1年生スタッフ)となって活動を支えている。そのほかにも、サポーターと呼ばれる短期的な応援者や、資金を援助するTAPエンジェルといった参加もある。一般人にはなかなか馴染みの薄い現代アートだが、年々より多くの住民の間に浸透し、昨年のメイン会場となった旧戸頭終末処理場では、地元町会、自治会とその住民が総出で草刈りや清掃、当日の会場スタッフなどに参加するまでとなった。
TAPからは、街とアートを結ぶ新しい仕掛けが次々に飛び出してくる。取手駅高架下の殺風景なコンクリート壁面を芸大壁画研究室主催のコンペを通して本格的な壁画にしてしまった「壁画プロジェクト」、市内全18小学校が参加する「こどもプログラム」、アートマネジメント人材を育てる「TAP塾」など、さまざまな取組みが試みられ、今やそれぞれが独自の成長と展開を続けている。
さらに、TAP周辺には、取手市の「芸術の杜構想」、常磐線沿線の都市にある文化スポットやアートイベントを繋ぐ「常磐アートライン構想」、守谷市・牛久市とともに茨城県が進める県南アートトライアングルなど、街とアートが育む夢が次々に広がっている。
かつての宿場町、近くは東京都心のベッドタウンで競輪の町というイメージだった取手市は、21世紀を迎え装いも新たに、周辺地域を巻き込んだアートの街に生まれ変わろうとしている。