受賞のことば
思想・歴史2023年受賞
『首都の議会― 近代移行期東京の政治秩序と都市改造』
(東京大学出版会))
1987年生まれ。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。
日本学術振興会特別研究員(PD)、北海学園大学法学部講師を経て、現在、北海学園大学法学部准教授。
著書 『公正の遍歴』(共著、吉田書店)など。
母方の祖父と父の政治信条がおおいに異なったこともあり、対立をあえて先鋭的に表出する政治という営みの荒々しさには、幼いころから惹かれるものがありました。漫画版の日本史や子どもむけの伝記に親しんだのにはじまって、自分の生きる世界とつながっているのに何かが大きく違う過去を掘り下げる営みにもまた、興味を感じてきました。ただ、それと同時に、政治記事などから伝わる男性政治家の濃密なコミュニケーション空間や、引っ越した先の歴史豊かな城下町に対しては、よそ者としての若干の引け目をぬぐえませんでした。
本書の舞台である明治前中期の東京の議会には、上記のような屈託ぶくみの執着と、なにかしら共振するものがありました。議員たちがやたらに怒り敵味方に分かれている、しかしその構図も意味もいまひとつわからないと感じたのが、その後何年にもわたる同地の議会とのつきあいのはじまりです。この時期の東京府会や市会、そして各区の区会には、「首都」における中央・地方の切り分けがたさに加えて、制度形成期ならではの混沌、さらにはもとより巨大な城下町だったところに政治変動と都市改造が生じたことで増した多極性が明らかです。こうしたあいまいさや浮き上がりもふくめて、東京の議会はこう始動したのだと納得いく形で理解してみたい、そう思ったのでした。
試行錯誤しつつ時代をさかのぼっていくなかで、広い意味での明治維新が東京ひいては日本の政治にあたえたインパクトについて、改めて考えさせられることにもなりました。19世紀最後の四半世紀、東京の議会では、旧幕臣と旧町人の対峙から、市政「不振」批判にさらされた議員たちの焦燥を経て、政党の都市進出を図る辣腕政治家を焦点とした紛擾へと、加速しゆく社会の時代性を反映した変化が生じます。政治制度の変革と産業革命の本格化が、時差をともない、しかし連動して起こった日本で、中央・地方の議会政治はどう展開したのか。実勢としての地方政治の政党化と、それに対する反発は、いかなる作用を生んだのか。本書の考察をもとに、今後さらに探っていきたい点です。
日本史学の実証手続きを踏んでいる――少なくともそうあろうと努めた――本書は、ともすれば、史料に忠実で控えめな書き手の姿を想起させるかもしれません。ただ、本書を準備する過程でいまさらながら痛感したのは、どういう主語で個人や集団をくくり、どういう動詞や形容詞をその認識や行動にあてるかという選択の積み重ねで、立ち上がってくるイメージは大きく変わりうるということでした。こうした選択がはらむ一種の飛躍を引き受けて、史料を集め読み解く力とともに、言葉に対する感覚を鍛えていきたいと思います。このたびは本当にありがとうございました。