活動詳細
香川県 丸亀市 2022年受賞
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
子どものためのアート教育に注力し、地域住民に親しまれる文化芸術創造拠点
代表:長原 孝弘 氏
2022年10月更新
猪熊弦一郎(いのくまげんいちろう)(1902-1993)は、昭和を通して国内外で活躍した香川県出身の現代美術作家である。猪熊は幼少期を県中西部の丸亀市で過ごし、地元に対する強い思い入れをもっていたことから、同市からの美術館創設に関する協力依頼を快諾。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(略称「MIMOCA(ミモカ)」。以下、ミモカ)は、1991年、猪熊の大きなサポートを得てJR丸亀駅前に完成した。
猪熊は「美術館の活動を通じて美しいものがわかり、新しいものに共感できるような豊かな感受性と優しい気持ちを持った人に育ってほしい」という思いから、ミモカが子どもたちを大切にする美術館になるよう全面的に協力。建物正面に手掛けた壁画など落書きにも見える猪熊作品を見て、自分にも描けると思って美術に親しみをもった子どもたちが、繰り返しミモカに足を運ぶ姿を目指した。
猪熊の思いを受け継いだミモカは、「子どものためのアート教育」に力を入れており、開館以来30年間で50万人を超える子どもたちに様々な現代美術作品とふれあう機会を提供してきた。なかでも特徴的なのが、ほぼ毎月欠かさずに開催する子ども向けの無料ワークショップである。これほど長期にわたり継続している月例の無料ワークショップは、全国でも珍しいという。またミモカは「文化芸術が常に傍にある環境作り」にも注力してきた。日常生活の中で子どもたちが気軽に現代美術とふれあえるよう、入場無料の対象を高校生までとしたり、学校への出前講座を積極的に開催してきたほか、猪熊作品を用いた美術館オリジナルグッズの学校行事への提供や、来館やイベント時にもらえるスタンプを集めた子どもに対するプレゼント企画なども行ってきた。
長期にわたるこうした取り組みが実を結び、ミモカは、今ではすっかり丸亀市民の日常に溶け込んでいる。閉館後も開放されているコンコースには、高校生らが集う姿が日常的に見られる。また、幼い頃にミモカでアートに親しんだ人たちが、今では親世代となり、リピーターとして子連れで訪れるようになったという。そうした結果、市民の間では今、猪熊自身ともミモカともとれる「いのくまさん」という愛称が定着し、様々な世代から親しまれている。
猪熊は、「アートは心のビタミン」、「美術館は心の病院」と考えていた。これからもミモカは地元住民の心を豊かにする場所であると同時に、地域を元気づける文化芸術拠点としての役割が大いに期待されている。