女王の愛するチーズに、お母さんの愛するワイン
スティルトンと赤玉の歴史的なマリアージュ
かつてエリザベス女王が来日されたおり、「毎朝スティルトンがなければ一日が始まらない」といって急遽空輸で取り寄せたという話を聞いたことがあります。世界三大ブルーのひとつとして有名なスティルトンですから、エリザベス女王だけでなく、英国人にとっても、このチーズに対するこだわりはなみなみならぬものがあるのでしょう。
スティルトンのデビューは、ロンドンより北にあるスティルトン村の「ベルイン」という旅籠でした。ここで食べたチーズに感動したジャーナリストのデフォー氏が小説に紹介したことで、英国中にその名を知らせることになったのです。実際にスティルトンが生まれ現在も作られているのは、さらに北のレスターシャー、ノッティンガムシャー、ダービーシャーの3州だけです。
スパイシーでタラゴンのような、または若いセロリの葉のような、苦みと甘みが混じり合った濃厚なコクが魅了するチーズだからか、「初老の男だけが、一杯のポートと一緒にスティルトンを味わう楽しみがある」と言われた時代もあったそうです。でも、今の時代では、男性だけの愉しみにしておくにはもったいないですよね。
このポートとスティルトンの組み合わせは、17世紀末の対仏戦争で、それまで輸入されていたフランスワインが入らなくなったことが、そもそもの始まり。ポートはもともと酒の税率も低く、よく飲まれていたのですが、英仏の関係の悪化からポートを飲むことは愛国的行為となったのです。