2015年3月18日(水)~5月10日(日)
※作品保護のため、会期中展示替をおこないます。
※各作品の出品期間は、出品作品リストをご参照ください。
正徳6年(1716)は近世絵画史において見落とすことのできない年でした。伊藤若冲が京都錦小路の青物問屋「桝屋(ますや)」の長男として生まれ、与謝蕪村が大坂東成郡毛馬(けま)村で誕生しました。それだけでなく、京都では元禄期の町人文化を担った尾形光琳が亡くなりました。さらに、徳川吉宗が八代将軍となっています。吉宗は洋書の輸入緩和や海外の珍しい文物の輸入などに力を入れました。また黄檗(おうばく)宗という新しい宗教に付随して、中国の最新の画譜類などももたらされたことにより、近世画壇は大きな変革期を迎えます。
この章では彼らが生きた18世紀の日本に皆様をいざないます。
若冲と蕪村は、ふたりともいつから絵を描き始めたのかははっきりしません。若冲は最初に狩野派の絵を習い、その後、相国寺(しょうこくじ)などの大寺院が収蔵する中国・朝鮮絵画を鑑賞し模写しながら勉強しました。また実際に生きた姿を観察できる鶏を庭に放ち、その動きを写すというように写生を重視した作品を描いていきます。これに対し、蕪村は20歳頃に江戸で俳諧を学びますが、俳諧の師匠の逝去をきっかけに、浄土宗の僧侶として北関東から東北地方を約10年間放浪します。その間に描いた作品は当時の狩野派などの技法とは異なる個性的な描き方をしています。
若冲と蕪村の40代から50代にかけての時期は、いずれも気力、技術ともに充実した作品を多く制作した時期でした。
40歳で家業の青物問屋「桝屋」を次弟に譲って隠居した若冲は、絵を描くことに専念し、やがて動植綵絵三十幅と釈迦・普賢・文殊像制作にとりかかります。また、鹿苑寺(ろくおんじ)障壁画など大画面の水墨作品も手がけます。
蕪村も40歳を過ぎてようやく京へ定住します。そして、当時流行していた中国人画家沈南蘋(しんなんぴん)(生没年不詳)の絵画に影響を受けた迫真的な花鳥図や、中国の文人画家の技法に倣った山水図など幅広い画題を描いていきます。中でも、俳諧仲間たちがお金を出し合って結成した屏風講によって制作された屏風は、高価な絵の具をふんだんに使っており、きわめて充実した作品群が短期間に作られました。
若冲の水墨画の中で特筆すべきは、筋目描き(すじめがき)の技法による作品群です。これは画箋紙(がせんし)とよばれる紙の吸水性の強い性質を利用し、隣り合った墨が混じることなくその境目が筋のように白く残るのを活かした描き方で、筋目を使って龍のうろこや菊の花弁などを表現しました。
一方、蕪村は発句と絵をひとつの画面に描き、それぞれが響き合う俳画という新しい分野を開拓しその第一人者となりました。これらの作品からは、若冲と蕪村いずれもが、従来の作品に満足することなく、新しい技法に挑戦し続けていた様子がうかがわれます。
享保16年(1731)に長崎へ渡来した沈南蘋が伝えた写実的な花鳥画は、一世を風靡しました。若冲、蕪村らも例外ではなく、宝暦年間(1751~63)に描かれたふたりの作品には、明らかに沈南蘋風の動物画があります。また若冲の枡目描(ますめがき)や拓版画(たくはんが)にも中国・朝鮮絵画からの影響が指摘され、蕪村は元明清の中国絵画に学んだ作品を残しています。ここでは彼らの作画活動と何らかの関わりを示すと思われる中国・朝鮮画や同時代の画家鶴亭(かくてい)(1722~85)の作例を紹介します。
蕪村は晩年、若冲の住む京都の四条烏丸近辺に居を構えました。現在のところ、若冲と蕪村の直接の交友関係を示す作品や資料は確認されていません。しかし同じ禅僧や学者がどちらの絵にも賛をしており、上田秋成(うえだあきなり)、円山応挙ら共通した知人と交流があったことは確認されています。
ここでは若冲と蕪村が交流していた人物たちとの合作や賛のある作品を紹介します。
若冲は晩年、米一斗(いっと)で一枚絵を描くという意味の「米斗翁(べいとおう)」という画号を用い、蕪村は明和7年(1770)に夜半亭(やはんてい)二世を継承して以降、「夜半翁(やはんおう)」という号を使います。しかしながらふたりとも「翁」という字がもつ「年老いた」という語感からは想像できない活発な制作活動を続けていきます。ここでは若冲は「米斗翁」落款、蕪村では「夜半翁」や「謝寅(しゃいん)」落款の時代を中心に、晩年の充実した作品群を展示します。
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