2014年3月29日(土)~5月11日(日)
※作品保護のため会期中、展示替をおこなう場合があります。
※各作品の展示期間については、美術館にお問い合わせください。
科学的理論に裏打ちされた西洋の遠近法は、さまざまな絵師たちに大きな衝撃を与えました。奥村政信(おくむらまさのぶ)、歌川豊春(うたがわとよはる)、葛飾北斎、歌川広重らは、透視図法(とうしずほう)(線遠近法)を用いた「浮絵(うきえ)」を多数残しています。透視図法は、一定の視点から見た物の距離感を、見た通りに平面上に表現するため、西洋で発案された遠近法の一種で、江戸時代後期の日本にも広まりました。また、円山応挙らによって制作された「眼鏡絵(めがねえ)」も人気となりました。
こうした流れを受けて成立したのが、秋田藩士・小田野直武(おだのなおたけ)らによって創始された「秋田蘭画(あきたらんが)」です。洋風表現を取り入れ、近景を大きく、遠景を小さく描く手法や、近景をはっきりとした色彩、遠景を淡い色彩で描く「空気遠近法」などによって、独特な遠近表現を確立しました。そして、直武から西洋画法を学んだ司馬江漢は、腐食(ふしょく)銅版画の制作に成功し、洋風画の普及に貢献しました。白河藩主・松平定信に才能を見出された亜欧堂田善(あおうどうでんぜん)もまた、定信の支援のもと、銅版画の制作に尽力します。
本章では、さまざまなジャンルの絵師たちによって描かれた遠近法の作品を通じて、その多様な広がりをご紹介します。
上空から地上を見下ろす鳥瞰図(ちょうかんず)(俯瞰図)は、地形を表すのに最適な技法として、古くから名所や神社仏閣を描く際に使われてきました。江戸時代後期になると、透視図法などを取り入れ、より正確な遠近表現に基づく鳥瞰図が生み出されるようになります。
また、鳥瞰図は地図制作と密接に関わる画法であり、正確な地図作成のためには、望遠鏡による天体観測が不可欠でした。16世紀末に西洋で開発された望遠鏡は、まもなく日本に流入し、18世紀になると次第に一般にも普及し始めます。お金を取って望遠鏡をのぞかせる見世物が登場し、娯楽目的で所有する人々も増え、絵画や浮世絵にもその姿が描かれるようになります。
本章では、絵師たちが想像力を働かせて描き出した鳥瞰図や、望遠鏡という新しい「視覚」に対する人々の関心の高まりを表す作品をご紹介します。
顕微鏡は16世紀末にオランダで発明され、日本には18世紀半ばに流入しました。江戸時代後期には和製顕微鏡も制作され、大名や蘭学者たちがとくに強い関心を寄せました。蚤や蚊などの虫の拡大図や、雪の結晶など、顕微鏡を用いた観察に基づく知見もまた認識されるようになり、その姿が着物の柄に取り入れられるなど、さまざまな広がりをみせます。
本章では、虫や雪といった、見慣れたはずの自然界の景色が、レンズを通して見ると一変するという、人々の新鮮な驚きを伝える作品をご紹介します。
動植物を目の前にし、その姿を写す「写生」は、近世以前から日本で行なわれてきました。江戸時代後期には、西洋の博物学の影響で自然科学への関心がさらに高まり、写生図の制作が爆発的に増えるようになります。自然界の動植物を分類し、名称や特徴などの説明を添えた写生図は、粉本を踏襲する伝統的な花鳥画とは違い、「博物図譜」的な性格が強く表れた作品ともいえます。一方で、迫真的な写生図の中には、鑑賞目的としても充分に通用する、美麗なものも少なくありません。
本章では、博物学的な研究目的と、芸術的鑑賞性が重なり合ったところに出現した、江戸時代後期ならではの独特な写生図をご紹介いたします。
江戸時代後期には、光学的現象への関心から、光や影に対する意識が高まり、その面白さを題材とした作品が多数生み出されます。障子などを通して見える影に注目した「影絵」は、シルエットのみで対象を表現する、機知に富んだ趣向といえます。そして、ある物体が集まってまったく別の形を作り上げる「寄せ絵」もまた「影絵」と深く関連するもので、歌川国芳らによって大きな発展を遂げました。
さらに、ゆがんだ画像を円筒状のものに投影することで正常な姿に見える「鞘絵」や、鏡や水面に映る映像に焦点を当てた絵画なども多数描かれ、科学的に計算された「視覚効果」が、絵画表現における大きな要素の一つとなっていく様子が見て取れます。
本章では、光や影を捉える絵師たちの豊かな発想と鋭い観察力が発揮された、「視覚」の妙を伝える作品をご紹介します。
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