「同志」と研究を進める喜び

堀江 潔(ほりえ きよし)

佐世保工業高等専門学校基幹教育科(歴史)教授
2019年度、2020年度研究助成「学問の未来を拓く」被採択者

「同志」と研究を進める喜び

堀江 潔
Kiyoshi Horie

「同志」と研究を進める喜び

堀江 潔 Kiyoshi Horie

 2018年8月。同僚の数学教師、眞部広紀氏から声をかけられた。ドローンを操縦する友人が来るから、一緒に山城のドローン空中撮影をしないか? 眞部氏は、数学や課題提出が苦手な学生を集め、放課後や夏休みの学習会で指導する取り組みを始めた「同志」である。山城を空からの視点で見ると、どんなだろう? 素朴な気持ちで近くの唐船城(佐賀県有田町)の撮影を提案。当日は快晴。操縦者・岡本渉氏(名古屋大学全学技術センター)は、数多くの探査経験を持つ百戦錬磨の達人。撮影動画は素晴らしかった。「視点を変えて見る」ことは、こんなにも刺激的なのか?! 即座にドローンの魅力の虜となった。さらに眞部氏から、撮影した写真計測画像からSfM/MVSソフトウェアを使って3次元モデルを作れば、山城研究に活用できるのでは?とアドヴァイスを得た。

 私の専門は文献史学で、対馬で行われたシンポジウム報告をきっかけに古代山城研究に関心を高めていたが、文献史学の世界では単著論文が基本で、共同研究に興味は無かった。しかし3人で行ったフィールドワーク、ドローン空中撮影は本当に楽しく、かつ刺激的だった。また、学習会のもう一人の「同志」、データサイエンスを専門とする大浦龍二氏とも、3次元モデル製作に必要なパソコン仕様や防禦機能の数値化等々について話をするようになった。こうして学内外に声をかけて研究グループをつくり研究助成金獲得を目指す中、2019年7月、サントリー文化財団の研究助成「学問の未来を拓く」にご採択いただいた。

 研究課題名は「古代から中近世にわたる山城・城柵・グスク・チャシの変遷に関する研究~構造の3次元モデル比較と防禦機能に関するシミュレーション~」である。私の関心は7世紀史解明の要所となる古代山城にあるが、文献史料がほとんど無く、発掘調査事例も多くない。そこで山城は通時代的に、また各地に造られるのだから、時間軸と空間軸を広げ、立地や構造が類似する各地の山城を対象に3次元モデルを作り、各山城が持つ防禦機能の比較研究を目指す計画である。南は沖縄県のグスクから北は北海道のチャシまで、まず岡本氏に同行を依頼し各地の山城のドローン空中撮影を開始。しかしドローンにも弱点がある。降雨や強風の日には飛行できない、写真測量画像取得のためには草木の少ない冬場、そして影ができない曇天の日がよい、等々。各地の気候を調べ撮影予定日の天気を予想しながら、複数人のスケジュールを合わせ、交通手段や探査ルート・宿泊地の選定と予約、出張依頼、山城の管理団体(地方自治体)への撮影許可申請…と、なかなかに忙しい。おまけに古代山城以外、特にグスクやチャシについては詳しい知識を持たない。まさに泥縄式学習の連続。だが、それはそれで楽しい。古代山城と同様に、グスクやチャシも軍事目的で造られたかどうかという議論があることが分かった。各地の城郭とされている遺跡を城郭と決めてかかると、道を誤る。「城とは何か?」という根源的問いを、実は考えねばならない。これまで山城研究では比高が重視されてきたが、傾斜の緩急に着目して山城各所の防禦機能を測定し、実際の戦争に際してどの程度の防禦機能が発揮できるのか、防禦機能の数値化や戦闘のシミュレーションを行う。まだ道半ばだが、これが実現すれば「城とは何か?」という問いに対し答えを出せるのでは? これは面白くなってきた。が、とても1年や2年で解決できそうもない!

 また、各地への探査旅行を行う中、史跡を管理する地方自治体が、ドローン空中撮影や3次元モデルを活用した地域振興に強い関心を持っていると感じた。本研究グループの活動や研究を地域振興に活用できるのでは? と考えていた折、高専機構の研究推進部門から、工学を用いた史跡計測と地域振興を目指す他高専の教員を紹介された。京都府舞鶴市まで押しかけ、連携活動開始。今後は他高専にも「同志」が増えそうだ。

 レオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画を描くために解剖学・生理学・天文学・航空力学・土木工学等々、多分野の学問を学び成果を残した。私も今は、「山城とは何か?」という問いに答えるため、どんな分野の学問でも学んで活用したいと強く思っているが、とてもレオナルド・ダ・ヴィンチにはなれない。しかし私は、勤務校で学生指導に四苦八苦している「同志」と、ともに研究を進めることができる。すぐ近くに専門学科の教員や工学の技能に長けた学生がいる。つい最近、共同で水中ドローンと3次元モデルを使った課題でIoTコンテストに応募した。地方自治体の文化財担当者の知り合いも多くなった。自分の専門分野を根本に置きながら、かつ異分野の専門家たちと互いに知恵を出し合い、多様なアプローチを仕掛けて研究課題に立ち向かう。こんなに楽しいことは無い。「同志」に感謝! そして今後長く取り組んでいける研究活動のきっかけをくださったサントリー文化財団には、本当に感謝してもし切れない。ぜひ研究助成「学問の未来を拓く」のご活動を、今後も長く続けていただきたい。

堀江 潔(ほりえ きよし)

佐世保工業高等専門学校基幹教育科(歴史)教授
2019年度、2020年度研究助成「学問の未来を拓く」被採択者

インタビュー/エッセイ