鈴木さんは、沖縄にもともと縁はない。小学3年生のとき、父親の転勤に伴って沖縄に引っ越し、祭り太鼓に出会った。
「自分と近い年齢の子どもたちが生き生きと頑張っている姿をみて、衝撃を受けました。」
当時ジュニア部門は募集を休止していたため、5年間待ち、中学2年生で入会した。以後、学校以外のほとんどの時間をメンバーと過ごしてきた。振り返ると、メンバーとの仲を深めることは、自分にとってかけがえのない友人ができただけでなく、息のあった演舞をする上でも大切なことだったそうだ。
19歳で沖縄支部長を任された。その時初めて、一人ひとりに目を配る意識を持ったという。振付け指導を任せた高校生たちが、どんどん説明が上手くなる様子や、ジュニアの頃目立たなかった子が活躍するようになったことなど、それぞれの成長や変化にも気づくようになった。
就職を控え、支部長を後輩に任せるつもりだ。
「支部長は、なってからどう動くかが大事。今はまだ力不足でも、いつか立派な支部長なってくれるだろうっていう人を見つけたい。」
祭り太鼓の役職は、年功序列や支部内の互選ではなく、情熱や適性を見て本部から任命する。任期は原則3年で最長5年まで。一般的にはまだ早いと思われる年齢のうちに就任して、次々交替することで、より多くの若者が大きく成長することができる。支部長としての自覚を持ち、責任をまっとうしようとする鈴木さんの様子から、可能性を信じて、まずチャンスを与えることの大切さが伝わってくる。
※年齢・役職は2010年10月取材時のもの。現在は大学を卒業して就職。祭り太鼓では本部指導員として活躍している。
国吉さんは子供会でエイサーを踊っていたが、当時はまったく興味を持てなかったという。それが小学6年生の時、祭り太鼓の公演を見て、「鳥肌が立った」。
中学2年生での入会以来、祭り太鼓漬けの日々を送っている。高校2年生の時には、年上のメンバーたちに混じって支部長に抜擢され、活動の方針や企画を考える本部の会議にも出席した。豊見城支部長、企画部長を歴任し、現在は運営委員長を務め、イベントなどでの進行の企画を担当している。大人数のダイナミックな演舞ができるのは祭り太鼓ならでは。県外の支部も集まる年一回の「全島エイサー」は、壮観な景色だと国吉さんはいう。
「昔は祭り太鼓が仕事になれば良いなって思ったときもあったんですが、今は、仕事でやっちゃいけないって思います。多分、仕事にしてしまうと、本当の楽しみっていうのがわからなくなる。」
祭り太鼓は各地のイベントに招かれることも多く、国内外へ遠征する。自己負担も大きいが、国吉さんはいつも積極的に立候補してきた。海外公演では、日本人会を中心に、100人を越える現地の人たちを募り、踊りを教え、一緒に踊る。これまで国吉さんは南米やメキシコ、中国などを訪れて、長い時には一月半も滞在し、踊り方を指導した。言葉が通じなくても、一緒に太鼓を持って踊れば、すぐに友達になれるのが祭り太鼓の良さだという。
海外での指導をはじめ、国吉さんは「祭り太鼓にしかできないこと」を数多く経験してきた。そしてそれは、新しいこと、自分だけではできないことだ。そういうことに挑戦できるからこそ、祭り太鼓という場所が、いつまでも魅力的であり続けるのだろう。
※年齢・役職は2010年10月取材時のもの。現在は、ホームセンターに勤務し、引き続き運営委員長も務めている。
- 演出 目取 真武男さん
- 事務局長 伊賀 典子さん
祭り太鼓の創設者で、現在も演出を行う目取真武男さんは、独創的な発想と情熱で多くの若者の心を掴んできた。「5人でもやりたい人がいれば、すぐ支部を作る。その中で、若くてもやる気がある人を支部長にする。皆役割を与えるとやる気になるよ。」目取真さんいわく、結成当時、メンバーは職人や自営業が多く、また中には元暴走族の若者もいた。彼らに祭り太鼓の役職を与え、名刺を持たせたところ、それに見合う働きをしようと頑張るようになったという。
一方事務局長の伊賀典子さんは、これからの祭り太鼓について、若手がもっと積極的にやりたいことを提案してほしいと考えている。伊賀さんは祭り太鼓のために香川から沖縄へ移住し、現在は目取真さんの右腕として、裏方を務める。伊賀さんが言うには、昔は目取真さんの提案を皆で聞くだけだったが、今はまず若手の意見を聞き、それを皆で考えるようにしているという。ただ彼らに発言の場を作っても、意見を言わないことも多いそうだ。これからの若手育成のためには、役割を任せるだけではなく、彼らが自分の思いを表現できる方法を考えることが必要だと伊賀さんはいう。
目取真さんも伊賀さんも「若い人たちには情熱がある」と思っている。情熱がなければ、県内外のエイサー団体が国際通りを埋め尽くしてパレードする「一万人のエイサー」や、スカイプで世界各地をつないだ同時演舞「地球スペシャルエイサーページェント」など、大きなイベントの実現のために夢中になって頑張ることもできなかったはずだと二人はこれまでを振り返った。
目取真さんに後継者と思える人はいますかと尋ねると、「全員」という答えが返ってきた
「昔だったら、誰か突出した人がリーダーになるのかもしれないけれど、今は誰がなっても皆で一緒にやる、それが祭り太鼓の凄さではないか。だからこそ大きなこともできる。」
2010年10月取材:高嶋麻衣子