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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2023年度

タイBLドラマ―日本における逆輸入文化に関する研究

京都産業大学現代社会学部 教授
ポンサピタックサンティ ピヤ

 本研究は、文化研究(カルチュラルスタディーズ)およびファン研究の手法に基づき、日本発祥のBL(ボーイズラブ)文化が海外(特に、タイ)へ波及し、日本に逆輸入されて人気を得た過程を明らかにするとともに、逆輸入文化が日本人のファンおよびタイ人のファンにもたらした影響を明らかにする。研究成果として、さまざまな活動を行い、2024年度日本タイ学会研究大会にて「タイBLの現在―どのように影響を与え、成長しているのか?―」大阪府立大学にてと題したパネル研究報告を行った。報告内容は以下の通りである。
1. ピヤ ポンサピタックサンティ「タイBLドラマの日本人ファンの特徴、行動およびその影響―アンケート調査より」
2. 西田 昌之「母胎回帰するボーイズラブ―日本におけるタイBLTVドラマ『SOTUS』同人誌の内容分析」
3. 平松 秀樹「タイの最新BL小説を読む―ナーガとガルーダはもはや宿敵にあらず」

 また、「タイBL文化―日本からの視点」として2024年7月24日にタイ・Chulalongkorn大学の社会研究所(Social Research Institute)と共同オンラインシンポジウムを行った。タイBLの歴史分析、タイBL文化の発展過程、タイBLドラマのタイ人・日本人ファン研究および比較、タイBLドラマの同人誌の内容分析といった様々な角度から検証した。アーカイブは、フェイスブックページに公開されている。
 そのほか、タイ政府のThe National Broadcasting and Telecommunication Commissionの『タイのテレビにおける多様性』のゼミナールにて「日本におけるタイBLドラマ」について発表(2023年9月25日)、明治大学の国際BLシンポジウムにおいて「日本BLのタイへの輸入史」と題して発表(2023年11月25日~26日)、Sustaining BL/ Y Studies and Creative Sectorsタイにて発表(2024年3月9日)、そして、以下『年報タイ研究』第23号に4本の特集論文を掲載した。

著者名 『年報タイ研究』第23号(2023)の4本の特集論文、ページ
ヴィニットポン ルジラット 「BL文化からみる文化のハイブリディティ:日本に逆輸入された「タイBL」の歴史」3-17
ポンサピタックサンティ ピヤ 「タイBLドラマの発展―特徴・制作過程とその影響―」19-29
平松秀樹 「タイBLドラマへの道:「LGBTQドラマ」からBL(Y)ドラマへのエボリューション」31-43
西田昌之 「タイ・ボーイズラブ小説同人誌における執筆戦略:「尊い」世界を描くための遠近法」45-60

 また、歴史学・社会学・人文学・人類学・文化学・文学研究の視点から、新しい研究対象のタイBLドラマを分析し、以下が研究テーマの新たに得られた知見となる。

テーマ 新たに得られた知見
・タイBLの歴史 ◆日本側とタイ側のBL歴史調査。そこから文化の「連鎖」が明らかになった。
・タイと日本のBL文化の関係史
・日本におけるタイBLファン
◆日本におけるBL文化形成に影響を与えた森茉莉(1903~1987)の作品群と、タイBL作品群の世界観を比較考察した。◆日本におけるタイBLのファン行動を調査。BLドラマを視聴することだけではなく、日本におけるファン文化とBLドラマの逆輸入文化が、相互に影響を与えたため、文化ハイブリダイゼーションの現象が見られた。
・タイ人/日本人に対するタイBLドラマの視聴者特徴・行動およびその影響
・タイBLドラマ制作プロセス
◆日本人(1728名)、タイ人(258名)のアンケート調査・インタビュー調査を行い、両国の視聴者の特徴、行動およびその影響が明らかになった。⇒日本のBL文化は、タイBLドラマ(Yドラマ)としてローカル化(タイ化)された。性的少数者の存在をより受容しやすくなっている。◆タイ現地でのインタビュー調査・資料調査により、ドラマ制作プロセスが明らかになった。
・タイにおけるLGBTQドラマからBLドラマへの展開の分析・調査 ◆バンコク他にて聞き取りを実施し、タイ人の意識調査が明らかになった。◆論文ではタイドラマにおける性的マイノリティー表象の変遷を明らかにした。◆現代物以外に時代物や古典文学などを題材にし始めたタイBL小説の最新の傾向を分析した。
・タイBL同人誌の執筆戦略
・日本におけるタイBLドラマ同人誌の内容分析
◆タイBLドラマブームの基礎となったBL同人誌のアマチュア作家たちの分析を行った。初期のBL作家たち、特にジャニーズファンたちの執筆の様子や動機を聞き取ることによって、彼らがいかに物理的、文化的距離を乗り越え、タイの文脈で日本のBL文化を受容していったのかを明らかにした。

 さらに、今後の課題として、次の4点に焦点をあてる。①日本語・タイ語・英語の書籍出版、②タイBLファンの調査・国際比較、③日本のタイBLドラマ同人誌の内容分析、④タイの実写BLドラマシリーズと映画は、全世界において広範に受容されるため、研究対象地域を、日本とタイ以外の、他の東南アジアや東アジア諸国にも広げる。

2024年9月