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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2023年度

歴史を読み解き未来を紡ぐ思考法「リバースキャスト」の構築に関する学際的・実践的研究

ラボラトリオ株式会社 マネージャー
長島 洋介

1.課題意識と研究目的
 ビジネス、地域デザインなどの文脈で「バックキャスティング」の利用が盛んになり、科学技術の研究開発~社会実装の文脈でも利用されることがここ数年で急激に増加している。しかし、地域単位で考えた未来技術等の実装を検討する上で、均質的な未来ビジョンに収束してしまう傾向にあるようにも見て取れる。そこでは、技術ドリブンにより、自然環境・地域文化とともに、数十年・数百年・数千年と地域が歩んできた歴史が持つ豊かさへの視点が欠けているように見える。
 そこで、「数十年から数千年までの時間の軸」「人間・自然・モノなどのマルチスピーシーズなアクターによる軸」「具体と抽象を往来するコンセプトの軸」といった包摂的に地域の歴史を読み解くパースペクティブのもと、各要素が相互作用する中で形成された地域の文脈から未来ビジョンを共創・創発させる思考法(=「リバースキャスト」)を確立させることを目指すことにした。こうした思考法を導入することで、未来技術等の新たな要素を地域に実装する際に、過去・現在・未来を接続した未来ビジョンを設計し、現在すべきアクションを導くことができるようにする。

2.進捗状況
 理論面では、「フォーキャスト」「バックキャスト」等のシナリオ作成の思考法と比較しながら、「リバースキャスト」の理論的な位置づけを明確にすることに着手した。また、本コンセプトの出発点となった奈良県中山間地域での取り組み(奈良型エクステンションシステム等)への訪問調査・意見交換を行ってきた。以上から、各思考法を個別に捉えること以上に、「地域ビジョン形成」、更にその先の「ソーシャルイノベーション」を促す上で、3つの思考法の良い組み合わせを描き出すことが最重要であると考えるに至った。
 加えて、歴史(文化・自然)の持つ射程を広げるために、文化・自然に関連する概念の収集・整理に取り組んだ。例えば、【陰陽道における「暦」×スマート農業】、【長崎におけるキリシタン文化×地域共生社会】、【江戸文化×DX技術・スマートシティ】等の可能性を整理している。
 実践面では、明治以降、急激で多彩な変動を見せている「福岡市中央区清川地区」を対象として、文献調査・ヒアリング調査を実施してきた。この地域は研究代表者が所属する組織が立地する場所でもある。 「一面が畑」であった明治以前から、近代化・都市化にある種、翻弄されてきたようにも見える地域の歴史を読み解く基礎情報の整理に取り組んだ。

3.今後の展開・課題
●理論面では、更なる理論的整理と文化的概念の収集を続ける。その際、「守破離」の考え方とリバースキャストがもたらす効果の親和性に着目し、ソーシャルイノベーションの観点から地域にもたらす各思考法(フォー・バック・リバース)のエコシステムを描けないか、と考えている。
●実践面では、地域の歴史を踏まえ「マンション・コミュニティ」または「つながり(人と人、人とまち)」をテーマに適用可能性を見極めながら、地域の人との共有・対話につなげたいと考えている。その際、(1)歴史の示し方、(2)該当地域に適応する文化的概念、(3)継続性の担保等の検討を並行して取り組む必要があるため、適宜着手する。

2024年9月