成果報告
2023年度
「道具の美」をめぐるメディア実践の歴史的研究:雑誌『工藝』『陶磁』『茶わん』『星岡』を資料として
- 大阪経済大学情報社会学部 准教授
- 團 康晃
私たちは飲食を行う際、必ず道具を必要としている。どのような道具を用いて飲食をするのかという問いは、民族や国と紐づいた文化・歴史の問題として民具研究からアプローチされてきた(神崎2017等)。一方日本では茶道や民藝運動のように飲食をはじめとした生活道具の美しさ(以下、包括的な概念として「道具の美」とする)そのものが焦点化された趣味の蓄積がある。それは大正時代から昭和以降、財界人だけでなく、広く「大衆」の消費文化として広がっていった。
こうした展開について茶道史研究(熊倉功夫1997等)、民藝研究(土田眞紀2007等)など各領域の蓄積がある。こうした状況に対して本研究は、「民藝」「茶道」「骨董趣味」等の個別領域の相互作用(例:民藝と骨董の関係等)と、その帰結としての「道具の美」をめぐる展開を捉えることを目的としている。
そこで注目するのが、昭和初期に立て続けに創刊した雑誌群である。それは各領域を駆動させるメディアであり、各領域間の境界と際立たせる実践の舞台でもあった。そこには多くの読者も投書などを通して参加していた。
そうした雑誌として、民藝運動の中心的な雑誌『工藝』(昭和6-26年)、鑑賞陶器についての雑誌『陶磁』(昭和2-18年)、北大路魯山人が顧問を務めた星ヶ岡茶寮の機関紙『星岡』(昭和5-16年刊行)、骨董趣味の雑誌『茶わん』(昭和6-25年)がある。
本研究では、この四つの雑誌を蒐集し、目録データを整理した。その上でメディア研究・社会学・民藝研究・アート・計算社会科学といった多様な立場から先述の「道具の美」をめぐる主要雑誌群を網羅的に分析し、「道具の美」をめぐるメディア実践の重層性を描き出すことを目指した。
この雑誌資料の分析として、目録データを使った計算社会科学的アプローチ(小田中・團2024)では、各誌における寄稿者のデータに注目することで、雑誌間の移動・交流の程度を明らかにし、各領域の開放性と閉鎖性の特徴を明らかにした。また記事の語彙に注目することで、各誌の執筆テーマの変遷を明らかにした。
また各雑誌の記事に注目した分析として團(2023)では、『茶わん』誌における飲食とその器についての記事の変遷を追いながら、戦時下における骨董趣味のあり方を明らかにしている。また、阿部(2024)は各誌における女性執筆者に注目し、戦前の「道具の美」に関わる雑誌における女性執筆者の少なさと、その参加における形式について明らかにしている。こうした研究成果を報告しながら、現代における各領域を専門とする研究者とも交流を行いながら、本研究は展開している。
今後の課題として、雑誌データの本文を計算社会科学的にアプローチするためのデータ整理すること。目録データの発展的な分析のために、執筆者の社会的属性や階層、地域について調査し、コーディングを行った上で分析すること。また、本調査を通して作成した目録データを公開することがある。これは次年度以降、取り組んでいくこととしたい。
2024年9月