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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2023年度

「歓待インフラストラクチャー」から読み解く近世ヨーロッパ都市文化=空間構造の比較研究

上智大学文学部 教授
坂野 正則

 「歓待インフラストラクチャー」(「歓待インフラ」)とは、下部構造としての、歓待施設(城館・修道院・別荘など)、周辺都市領域の地区・道路・河川・運河網といった空間組織、ならびに歓待を準備・実行する集団、彼らが持つ技芸、運営システム、規範から構成される有機的な社会工学的装置と、上部構造としての祝祭、饗宴、都市行列、茶会、演奏会等の歓待空間との往還運動を指す。本研究は、近世ヨーロッパ都市における様々な「歓待」行為に着目し、その性格を歓待インフラとして捉えなおすことで、「歓待」を一過性の娯楽や余暇ではなく、都市文化形成の主要な原動力、人間関係の信頼と安定の基盤を構築する日常的基層行為として考察することにある。

[研究の進捗状況]
 2023年度は、本研究に着手した初年度であるため、理論の構築と史資料の収集に努めた。とくに、近世ヨーロッパ史研究にとどまらず、イスラーム世界や日本の歴史的事例との比較は、ヨーロッパの事例を対象化する論点を見出すことに非常に有益であった。[理論的基盤を整備するにあたって得られた知見は後ほど記述する。史資料については、近世~近代のフランス・イタリアにおける宮殿・ヴィラに関する図面史料と文書史料を収集することができた。これらの解析を実施中である。
 また、アカデミックな専門人にとどまらず、非アカデミックな世界で歓待のスペシャリストとして活躍する方々との交歓も本研究の主要な柱の一つである。というのも、「歓待インフラ」に関する残存する史料というものは限られてしまっているため、その歴史的役割を正確に測定するためには、現役の活動を実践する方々からの聞き取りやその方々との対話が重要であると考えているからである。これについては、特にラウンドテーブルの機会を活用して実践することができた。以上から研究は予定通りに進捗した。

[成果]
 2023年度の成果としては、2回の「歓待インフラ」研究会、2回の「歓待インフラ」研究ラウンドテーブル、1回の共催講演会、1回のトーク企画がある。また、研究冊子として『フィールドから読み解く歓待インフラストラクチャー① 紫野 禁域と祭礼が織り成す都市文化の源流』を発行した。
活動の詳細な内容については、歓待インフラストラクチャー研究会のウェブサイトを参照。

[研究で得られた知見]
I:歓待インフラの類型化:ハレ(formal/official)とケ(informal/ordinary)、および公(public)と私(private)の概念の二軸から構成される4つの象限で把握(図版参照)
◎従来型インフラがカバーしてきた範囲(AとC)ではなく、「歓待インフラ」は新たな範囲(AとB)を扱う
II:「歓待インフラ」現象の対象を近世以降のヨーロッパ都市における社会エリートの経済的余力を背景に成立してくる技術・人間集団(人材)・規範に絞ると同時に、南ヨーロッパ型の社交と都市文化が生み出す地域的個性の分析に注力する必要性がある(テロワール概念の活用)
III:歓待インフラの統括主体としての女性の役割:サロンの女主人など

[今後の課題]
具体例の分節化と構造の解明を深めると同時に、歓待空間の活用や歓待から排除される人々を考察する。

2024年9月