成果報告
2023年度
奇術資料の残し方・集め方・伝え方の研究―奇術アーカイブの構築に向けて―
- マジック妖(AYAKASHI)代表
- 岡村 真衣
1.研究目的・概要
本研究は、アーカイブズの領域から「奇術アーカイブ」の意義・機能・役割を明らかにするものである。奇術は、その性格上さまざまな要素が混ざり合って形成される。これまで奇術は手順や技術の研究には高い関心が払われてきたが、そのほかの奇術に関する研究となると、十分な関心が寄せられてこなかった。近年では、文化的側面からアプローチした「奇術史研究」が注目を集め、盛り上がりを見せているが、現在、筆者が行なっているアーカイブズの領域から「奇術アーカイブ」そのものについての先行研究は皆無に等しい状況である。文化が多様化しアーカイブズのあり方自体も日々変化している中で、奇術資料を社会に開かれたアーカイブズとして残していくために「奇術アーカイブ」そのものについての定義づけを行い、奇術文化発展に寄与すること、研究基盤をつくることを目的として研究を行った。
2.新たに得られた知見
今日さまざまな「アーカイブ(ズ)」が存在しているが、言葉の定義は未だ曖昧である。今回研究を進めていく中で、舞台芸術アーカイブズの研究者である垣田みずき氏が「舞台芸術アーカイブズの編成記述に関する考察―慶應義塾大学アート・センター土方巽アーカイヴを事例に―」のなかで定義した「アーカイブズ」を参考に、「奇術アーカイブ」における「アーカイブ(ズ)」を以下のように定義づけた。固有名詞や引用部分を除き、「個人や、個人の集合体である組織体が、その活動のなかで特定の目的をもって何らかの媒体に記録した一時的な情報のうち、法的、業務的な価値や歴史的、文化的な価値のゆえに情報資源として永続的に保存されているもの、あるいは保存されるべきもの」(=「記録資料」)、「時間芸術に顕著にみられる、表現によって生み出される身体の動き、音楽、音声、時間の経過とともに消えていく性質のある物体の形では蓄積されない技芸(art)など、体験の共有(performance)、無形のもの」(=「記憶資料」)、および「記億・記録資料を収集、整理、保存し公開利用に供する機関ないし施設」を指す言葉として「アーカイブ(ズ)」とする。
奇術文化の発展・形成に寄与するため、文化、教養、調査、研究、趣味・娯楽に資するものを含む多様な資料を収集する必要がある。その際、著者の思想的・宗教的・党派的な立場にとらわれることなく、公平に幅広く収集しなければならない。また、よりよい「奇術アーカイブ」を構築するためには、個人・組織・団体からの意見によって萎縮することなく、資料の収集に努めなければならないこと。そのためには、現在の学芸員や司書、アーキビストのような役割を奇術分野で担えるような人物、奇術アーキビストの存在が必要である。
3.今後の課題・展開
今後、実際に「奇術アーカイブ」が実現したときにどう運営していくのか、また、そうなった場合、誰が、どこで、どのようにして奇術史料を後世に伝えていくのか、公開の範囲などはどうするのかなどといった課題が山積みである。
本研究を「奇術アーカイブ」の研究基盤とし、今後の「奇術アーカイブ」運営・構築に向けて出発したい。
2024年9月