サントリー文化財団トップ > 研究助成 > これまでの助成先 > 「レコード学」の構築―研究基盤の形成と魅力発信をめざして―

研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2023年度

「レコード学」の構築―研究基盤の形成と魅力発信をめざして―

九州大学総合研究博物館 専門研究員
大久保 真利子

研究の概要  SPレコードは近代期の音を記録する資料として貴重な文化資源であるが、発売総数も然ることながら、どのようなレコードが現存しているかさえ明確でなく、研究の際の大きな障壁となっている。また盤面から読み取れる情報は多分にあるが、各項目の体系的な整理や研究、公開は進んでいない。これらSPレコードに関するあらゆる知と情報の集積を「レコード学」と呼び、本研究ではその要素の一つとしてレコード会社史の整備およびレコードを入れる袋(スリーブ)の意匠について研究し、その成果を公開することを目的とした。なお本研究は2021年に発足した任意団体「歴史的音源所蔵機関ネットワーク(愛称:レキレコ)」の発起人が中心となり、代表者を含む7名(大西秀紀、京谷啓徳、齊藤尚、三島美佐子、毛利眞人、柳知明)で行った。

研究で得られた知見と成果  スリーブはSPレコード関連資料のなかではデザイン的に非常に興味深い資料である。しかし先行研究は数例しかなく、本研究に取り組むにあたり主に九州大学総合研究博物館が所蔵する約4万枚のSPレコードに対応するスリーブの整理からはじめた。そうしたところ関西や名古屋に拠点をおくレコード会社のスリーブは、専属演奏家の顔写真、自社製品(蓄音機や針)の広告、宣伝文句など記載事項が多く、コンテンツによってスリーブを作り変えて多くのバリエーションを作成するなど、スリーブを販売戦略に用いる傾向が認められた。そこで関西・名古屋に拠点をおくレコード会社約30社を対象として整理を進め、500点あまりのデジタル資料化に取り組んだ。詳細は論文(大久保真利子「SPレコードのスリーブに関する一考察―田村悟史コレクションを事例とした整理と研究」『九州大学総合研究博物館研究報告』第21号,pp.113-119,2024)にて発表するとともに、公開講座「大正・昭和の音とデザイン―関西と名古屋のレコード産業―」を実施し、研究メンバー4名による講演のほか、スリーブに関するミニ展示を行い、好評を得た。

今後の課題  2024年度も継続して助成を得られたことから、レコード会社史およびスリーブ資料の対象を全国にひろげ、レコード会社別・年代別の特徴を把握するなど考察を深める予定である。またシンポジウムの開催や論文の発表など研究成果の公開を通して、ひろく一般にもSPレコードの魅力を発信していきたい。

2024年9月