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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2023年度

太鼓持ち(幇間)に関する学際的総合研究

金沢大学国際基幹教育院 教授
井出 明

 本研究テーマは、コロナ禍においてオンラインの学術集会の運営に悩んでいた研究代表者が、場を盛り上げるシステムとしての太鼓持ち(男芸者・幇間)に着目し、学際研究の対象としたところに端を発する。
 研究協力者として、近年高齢のために引退された太鼓持あらいこと荒井正三氏をお迎えすることになり、単なる文献研究にとどまらない実践的な調査活動を行うことができた点も、今回のプロジェクトの特徴であると言えよう。
 確かに芸能としての太鼓持ちは、今でも浅草に行けば鑑賞の対象となるが、太鼓持ちの本質的な役割の一つとして、雇い主である旦那に対するビジネスパートナーとしてのコンサルティング業務も重要な役割の一部であることが判明した。これまで、芸能に関連する太鼓持ち研究については、科研費も含めて僅かながら先達の蓄積があったのだが、ビジネスや経営学の観点からの考察は検索した限り発見できず、今回の研究会での気付きは大きな成果と言えよう。
 また太鼓持ちの仕事は、雇用主である旦那を気持ちよくさせることにあると思われがちであるが、実際には芸者やお客さんも含めたお座敷という空間を共有する全員が楽しくなければ、接待としては成功したとはとても言えない。このように考えると太鼓持ち研究は、チームティーチングや組織論研究の観点からも、重要な意義を有しているということも分かった。
 さらにメンバーとの討論を通じて、欧州の宮廷道化師の中に、日本の太鼓持ちと極めて近い職能を担っていたケースが有ることがわかった。これは宮廷道化師が、王族の相談相手であった他、宴席を盛り上げることで社交の効果を向上させる役割を担っていたことが大きい。
 このように太鼓持ち研究は単なる芸能の問題ではなく、経営学や比較文化論の観点からより深く研究されるべき対象であるという認識に至った。これは学際研究ならではの成果であると考えている。
 今後は、本プロジェクトにおいて得られた知見を、メンバー各自が自身の専門分野に持ち帰り、従来の視点に今回の研究の成果を付加することによって、より新しい視点が生まれることが期待されている。
 若干の心残りとして、ビジネスシーンにおける太鼓持ちの役割が関西と関東でかなり異なることが分かってきたのであるが、その内実についてはまだ十分には掘り下げられてはいない。この点については、将来の研究の課題にしておきたい。
 さて、大衆芸能を担う専門家としての太鼓持ちはさておき、これまでのお座敷芸としての太鼓持ちに関しては、接待形式の変化やジェンダーの問題もあり、今後は消えゆくことが予想されている。それ故に、今回のチームによる学際研究は歴史的な面でも意義があったと言える。

2024年9月