成果報告
2023年度
XR技術による場所同一性の実現
- 駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部 講師
- 青柳 西蔵
■研究の進捗状況と成果、研究で得られた知見
本研究の最終的な目標は、場所が移動やXR再現によって物質的には変化しても元と変わらず同じ場所であり続けていること、すなわち場所同一性の要因を解明することである。場所は空間、活動、意味から成るが、意味と活動が同一性を作る本質である、ということが現段階の仮説である。これを検証するために、ある場所を実世界の異なる空間や仮想環境へ移植できるXRシステム「場所アバタ」を開発することを目指している。場所アバタは、ある場所を3DCGによって再現したバーチャル環境、もしくはそれを実世界に重畳表示したAR環境である。この研究は多くの課題を含んだ萌芽的な段階にあり、また実世界のどのような要素を再現するべきかが最初の課題である。まずは、我々のグループのこれまでの研究領域からどのようなアプローチが有望なのかを探った。
まず、学校の教室を対象として、実世界の場所をバーチャル環境に移植するVR型場所アバタを開発し、その場所の中のどのような物体が重要かを検討した。その結果、ゼミを行う小教室では学生の机、講義を行う大教室ではホワイトボード等、その場所の活動と関連の強い物体の再現が場所同一性の要因であることが示唆された(Aoyagi et al. 2023)。
次に、場所を実世界の異なる空間に移植するAR型場所アバタの実現に向け、2つの場所が融合した場所をバーチャル環境にどのように表現するべきかについて検討した。都市という場所を意味的に象徴するランドマークに注目し、2つの都市の3D再現のランドマークを入れ替えて両方の都市に見えるか否かを検証したが、ランドマークを入れ替えただけでは印象が変わらなかった(青柳 2023)。そこで、現在は都市の他の要素を検討中である。
また、場所同一性の要因としての環境の情報、具体的には暑そうな印象を受ける砂漠の画像や温度を表す湯気などが、本当に暑い場所にいるときのように人の身体に発汗や体温上昇などの影響を与えるのかを検証し、その現象が得られる可能性が示された(北村ほか 2023)。
さらに、場所同一性に関するこれまでの研究成果をまとめ、ヒューマンインタフェース学会若手交流会の一環として「デジタルツインはシミまでツインじゃないとダメ?」と題した講演およびワークショップを開催した。この講演では、場所同一性要因として、場所を同一に感じたいというモチベーションの重要性について、場所アバタと日本文化の「見立て」や「写し」との類似性の観点から検討した。
■今後の課題
VR型場所アバタでは建物内の部屋という小規模な場所しか対象としていないことが大きな課題である。今後、境界があいまいな広い場所に研究を進めていく予定である。また、場所同一性について、人の主観だけでなく、実世界の場所とその場所アバタでは行動の連動が見られるのか、を明らかにするための実験を現在計画し予備実験を実施済みであり、今後本実験に進む予定である。
2024年9月