成果報告
2022年度
英語圏ファン研究の批判的受容と日本・東アジアからの応答
- 筑波大学人文社会系 助教
- 渡部 宏樹
本グループでは以下の3点を目標に、1年間の研究活動を行った。
1 英語圏ファン研究の議論の吸収と日本からの応答
2 現代の大衆消費社会における市民的公共性について知見の拡大
3 ファン研究の裾野の拡大
【研究の進捗状況】
上記3点の目標に向けて、まずは英語圏のクリエイティブ・コモンズが付与された学術雑誌Transformative Works and Culturesに掲載されている論文の題目と要旨を日本語に翻訳すること着手した。翻訳がある程度形になった2022年末ごろから、月に一度の定例会を開き、この日本語訳を使いつつ意見交換や議論を行なった。毎回1-2名を担当者に指名し、Transformative Works and Cultures掲載論文と自身の研究を関連づけて話題提供を行うという形で行なった。この研究会を行うことで、上記目標の「1」ならびに「2」を目指した。
また、Transformative Works and Cultures掲載論文の題目と要旨の和訳ならびに研究会での議論の内容の一部はホームページを開設し公開することで、上記目標の「3」を目指した。研究成果公開用のホームページには、日本国内でファン研究的アプローチを行なっている研究者2名へのインタビュー動画も公開し、ファン研究の裾野の拡大に取り組んだ。
【活動の成果】
本研究グループはサントリー文化財団の助成を得たことをきっかけに結成し、助成期間以前には全員が全員を知っているわけではなかった。専門領域、研究対象、研究手法が異なる若手から中堅の研究者9名が定期的にオンラインで集まって議論したことで、それぞれ自身にとっての異分野の研究手法や文化現象に触れる機会となり、学術的に大いに刺激を受けた。
先述の通り、Transformative Works and Cultures掲載論文の題目と要旨の日本語訳、研究会での議論の一部はホームページ上で公開し、ベテランの研究者2名との対談動画も公開することができ、これらの研究成果は「3 ファン研究の裾野の拡大」という目標から照らして大きな成果である。
【研究で得られた知見】
月に一度の研究会を定期的に行なったので、議論の中で得られた知見は多い。特にテクスト分析を中心とする人文学系、フィールドワークや参与観察を行う人類学・社会学系、理論研究者、日本以外の東アジア地域を対象とする地域研究者等が一同に集い、それぞれの立場から異なる知見が得られた。
何点か強調しておくと、1)日本国内で蓄積されてきたファンに対する研究は英語圏に比べて見劣りするものではないこと、2)ジェンダー研究的観点は日本のファン研究でも発見しやすいが、英語圏を見ると人種や階級の問題も議論されていること、3)K-Popが注目されることが多いが、台湾や北朝鮮などで起きている文化現象もファン研究の観点から興味深いこと、などが重要な知見であろう。
【今後の課題】
今回の助成期間は研究を深化させることよりも、啓蒙・普及に注力した。この方針自体は妥当であったと思うが、次の段階では、今回のプロジェクトで出来上がった異分野の研究者によるネットワークをうまく活かし、学術研究上の貢献に繋げていきたい。
2023年8月