成果報告
2022年度
タイBLドラマ――日本における逆輸入文化に関する研究
- 京都産業大学現代社会学部 教授
- ポンサピタックサンティ ピヤ
本研究は、文化研究(カルチュラルスタディーズ)およびファン研究の手法に基づき、日本発祥のBL(ボーイズラブ)文化が海外(特に、タイ)へ波及し、日本に逆輸入されて人気を得た過程を明らかにするとともに、逆輸入文化が日本人のファンおよびタイ人のファンにもたらした影響を明らかにする。研究成果として、以下『年報タイ研究』第23号の4本の特集論文を掲載し、記事や学会発表も行われた。
著者名 | 『年報タイ研究』第23号(2023)の4本の特集論文、ページ |
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ヴィニットポン ルジラット | 「BL文化からみる文化のハイブリディティ:日本に逆輸入された「タイBL」の歴史」3-17 |
ポンサピタックサンティ ピヤ | 「タイBLドラマの発展―特徴・制作過程とその影響―」19-29 |
平松秀樹 | 「タイBLドラマへの道:「LGBTQドラマ」からBL(Y)ドラマへのエボリューション」31-43 |
西田昌之 | 「タイ・ボーイズラブ小説同人誌における執筆戦略:「尊い」世界を描くための遠近法」45-60 |
『年報タイ研究』第23号以外にも、以下2件の成果を発表した。
・Pongsapitaksanti, Piya (2022) “The growing popularity of Thai idols in Japan and Korea” Synodos Asia 2022年12月1日・「日本と韓国で人気急上昇!タイの人気アイドルたち」オンライン記事投稿
・ポンサピタックサンティ ピヤ「タイBLドラマの視聴者特徴・行動およびその影響:タイ人に対するアンケート調査」大東文化大学大東文化会館にて2023年度日本タイ学会研究大会に研究報告
また、共同研究者の異なる研究分野によって、歴史学・社会学・人文学・人類学・文化学の視点から、新しい研究対象のタイBLドラマを分析し、以下が研究テーマの新たに得られた知見となる。
テーマ | 新たに得られた知見 |
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・タイBLの歴史 ・タイと日本のBL文化の関係史 ・日本におけるタイBLファン |
◆日本側とタイ側のBL歴史調査。そこから文化の「連鎖」が明らかになった ◆日本におけるタイBLのファン行動を調査。BLドラマを視聴することだけではなく、日本におけるファン文化とBLドラマの逆輸入文化が、相互に影響を与えたため、文化ハイブリダイゼーションの現象が見られた。 |
・タイBLドラマ制作プロセス ・タイ人に対するタイBLドラマの視聴者特徴 ・行動およびその影響 |
◆タイ現地でのインタビュー調査・資料調査により、ドラマ制作プロセスが明らかになった。 ◆日本のBL文化は、タイBLドラマ(Yドラマ)としてローカル化(タイ化)された。性的少数者の存在をより受容しやすくなっている。 |
・タイにおけるLGBTQドラマからBLドラマへの展開の分析・調査 | ◆バンコク他にて聞き取りを実施し、タイ人の意識調査が明らかになった。 ◆論文ではタイドラマにおける性的マイノリティー表象の変遷を明らかにした。 |
・タイBL同人誌の執筆戦略 ・日本におけるタイBLドラマ同人誌の内容分析 |
◆タイBLドラマブームの基礎となったBL同人誌のアマチュア作家たちの分析を行った。初期のBL作家たち、特にジャニーズファンたちの執筆の様子や動機を聞き取ることによって、彼らがいかに物理的、文化的距離を乗り越え、タイの文脈で日本のBL文化を受容していったのかを明らかにした。 |
さらに、今後の課題として、次の3点に焦点をあてる。①日本人のファン分析だけではなく、タイ人のファンについて調査・分析を行う。②日本のタイBLドラマ同人誌の内容分析。③タイの実写BLドラマシリーズと映画は、全世界において広範に受容されるため、対象地域として、日本とタイ以外に、ラオスやカンボジアなどの東南アジア諸国、そして、中国や台湾などの東アジア諸国のBL文化研究の展開を検証する。
2023年8月