成果報告
2022年度
囲繞施設のデジタル三次元計測による縄文時代観の再考
- 東京大学大学院人文社会系研究科 准教授
- 根岸 洋
1 研究目的と進捗状況
本研究は、縄文時代後半期に見られる囲繞施設(溝・木柵列)を対象とし、該当遺跡の発掘調査を実施してデジタル三次元測量によって既往調査成果と合算することで、溝跡の形態や立地上の特徴をデジタル復元することを目的とする。さらに縄文時代の囲繞施設の変遷をまとめることを目指す。
本研究申請時には、縄文晩期(約3000年前)の溝跡・木柵列が検出された白坂遺跡(秋田県)などで発掘調査を実施する計画であったが、現地踏査を行ったところ、調査を計画していた地区にて調査を行うことが難しい状況が判明した。そこで本研究では研究協力者と協議の結果、囲繞施設の研究は可能な範囲で行いつつも、デジタル三次元計測技術が導入されていない縄文時代の木柱の研究も行うことにした。これまでに発見されている縄文時代の木柱の大部分は晩期のクリ材で後期のものはほとんど報告されておらず、さらに古い中期まで時期的な抜けがある。そこで縄文後期(約4000年前)の木柱が良好に保存されている、成沢2遺跡(秋田県)を調査対象として選定し発掘調査を行うことにした。
成沢2遺跡の発掘調査は2022年10月〜11月にかけて実施し、同年12月から2023年度にかけて出土遺物の整理作業を実施した。出土した木柱については、デジタル三次元計測ならびに年代測定を実施し、その成果の概要を2023年5月、日本考古学協会第89回総会研究大会(査読付き)にてポスター発表を行った(「縄文時代後期の掘立柱建物跡に伴う木柱の基礎的研究」)。同遺跡の整理作業はその後も進め、2023年度内に発掘調査報告書を刊行予定である。また研究期間にわたって、縄文時代中期から晩期にかけての囲繞施設を集成し、データベースを作成したほか、三内丸山遺跡(青森県)については、デジタル測量データをもとに縄文時代中期後半の溝跡を復元する作業を進めた。
2 研究成果と得られた知見
成沢2遺跡(秋田県)での発掘調査の結果、縄文時代後期中葉〜後葉にかけてのクリ材の木柱群と、それらからなる掘立柱建物跡を検出した。木柱のAMS年代はそれぞれ数十年間の差異があり、異なった段階に属する建物跡が想定される。この時期の木柱は国内でもほとんど類例がなく、現況では採取した年輪年代が他地域の事例と繋がるかどうかは分からないものの、将来的な研究に資する可能性が極めて高い。また木柱はフォトグラメトリを用いて高精度計測を行い、刊行予定の発掘調査報告書では従来的な二次元の実測図に加えて、三次元図面を掲載する計画である。同様の報告事例は土器・石器がほとんどで、木柱のような有機質遺物に用いられた事例はほぼない。本研究は脆弱な有機質遺物に対しても、デジタル三次元計測が有効であることを示すことができた。
また当初研究のメインに据えていた囲繞施設については、期間内の発掘調査がかなわなかったものの、集成作業を進めた結果、縄文中期から晩期まで切れ目なく作られていることが判明した。また三内丸山遺跡については、既往調査時の三次元計測データを集成し、地理情報システム上で地形と機能の関係を検討することが可能になった。これらの成果についても、年度末に刊行する発掘調査報告書中に掲載予定である。
3 今後の課題
縄文時代の研究へのデジタル三次元計測の導入という点では、本研究は一定の成果を果たしえた。一方、囲繞施設の発掘調査を実施できなかったことから、地形復元と合わせた総合的な研究は道半ばである。今後別の機会を得て該当遺跡の発掘調査を実施し、デジタル三次元測量技術を導入する研究へと発展させていきたい。
2023年8月