成果報告
2022年度
ウィズコロナ状況における祭礼・民俗芸能の継承に向けた戦術(tactics)とその可能性
- 法政大学社会学部 教授
- 武田 俊輔
1.研究目的
・2021年度「地域文化活動の継承と発展を考える」の助成を受けた研究テーマ「COVID-19下における祭礼・民俗行事の継承をめぐる困難と模索、新たな可能性」をふまえ、コロナ禍で祭礼や民俗行事が受けた影響、その中で担い手がどう模索しつつ継承に向けた様々な戦術(tactics)を駆使しているのかについて明らかにした。
・武田俊輔(長浜曳山祭)・阿南透(青森ねぶた祭り)・荒木真歩(三島村硫黄島、屋久島の民俗芸能)・有本尚央(岸和田だんじり祭り)・伊藤純(栃木県日光市栗山の各集落の獅子舞)・塚原伸治(近江八幡の左義長・佐原の大祭)・三隅貴史(兵庫県豊岡市城崎町のだんじり・岐阜県金神社新嘗祭・浅草寺示顕会・岐阜まつり・鳥越祭)の7名の調査成果を比較検討して上記の問題についての分析枠組みを構築する。
2.新たに得られた知見と刊行・報告済みの成果
・大規模な山車祭礼(岸和田だんじり祭り・長浜曳山祭)においては複数の地区・町内同士が連携を強めることで運営体制を強化する動きが見出された。コロナ禍は資源(資金・人的資源・技能・山車や道具などの物的資源)の調達をめぐる困難を浮き彫りにした。それを埋め合わせるための外部からの調達のしくみが強化されたし、文化庁の令和3年度補正予算地域文化財総合活用推進事業もまたその助けとなった。祭礼を継承、復活させようとする担い手たちの行為を支える抵抗力・レジリエンス(回復力)の根強さとそれを支えるしくみがこうした新たな動きをもたらしたが、それは同時に担い手に、祭礼を行うことへの説明責任という新たな負担を負わせるものでもある。
・離島の村落などでの民俗芸能については、単に表面的な開催の有無だけでは見えないような、集落に住み続ける島民同士が軋轢を避けうまく付き合ってやりすごす論理が見出された。あえて多くの人からの意見を聴かず、また他の集落から批判・揶揄されないように、意見を押し通したり極端な選択を行うことをあえて避けること、たとえ中止になっても集落でうまく住み続けるためるやり方こそが、コロナ禍の民俗芸能に関する一つの戦術のあり方であった。
・新型コロナウイルスの感染拡大以降、祭りや祭礼が、疫病退散のために実施されているという説明が強調される現象が多く見られたのはなぜか。岐阜県の事例では、疫病退散という説明は、2020年11月に渡御を実施するための影響緩和の戦術であり、それを用いたのは、先輩たちが盛り上げてきた神輿をコロナ禍以降も継承していくためだった。この担い手の戦術を出版・放送メディアが担い手の内的な意味以上に強調したことがそうした状況をもたらした。
・2023年になって、祭礼・民俗芸能はコロナ禍以前の状況を一見、取り戻したかに見える。ただしコロナ禍以前からの地区住民の高齢化、後継者不足問題、集落機能の低下の方がより深刻な事例では日程・演目の減少がある(日光市内の獅子舞)。また青森ねぶた祭りで密を避けるべく2000年以前のコース一方通行方式にまで戻したり、近江八幡の左義長のようにコロナ禍で生まれた「疫病退散」の意味付けが定着するなど、単なる回帰にとどまらない変容も見られる。
3.今後の展開
・2023年の各地での再開。しかしそれは「元通り」でなく新たな展開であり、その変化を把握していく。担い手が持つ継承をめぐる時間的スケール、その時々の実践や中止をめぐる短期的な時間と、世代継承性に基づく将来的な継承に向けた中長期的な時間感覚といった論点を今後さらに深化させ、さらなる成果の発信・共有を行う。なお既に発表されている成果については、研究代表者・武田のresearchmap記載の「共同研究・競争的資金等の研究課題」より、本研究課題のリンクを参照のこと。
2023年8月