成果報告
2022年度
ロシア「勢力圏」から読み解くポスト・ソビエト・ユーラシアの民主化に関する法変容
- 岩手県立大学総合政策学部 准教授
- 桑原 尚子
旧ソ連諸国における冷戦後の民主化/非民主化の法秩序を、内在的視点を踏まえて、動態的に把握するにはどうすればよいか。本研究では、「勢力圏」という概念を反転させ、旧ソ連諸国の法秩序について、民主化/非民主化の法制度、ならびに経済発展や安全保障のための投資関連協定および地域機構に着目して、共時的および通時的に、当該諸国の平和と安定を守るための戦略とその特徴を考察し、分析枠組み(試論)を構築することをその目的としていた。
ポスト・ソビエト・ユーラシア諸国における法秩序の変容について、「法と開発」研究、比較法、法社会学、国際法、法制史及び国際関係論の先行研究を分析して、経路依存性(ソビエト法および社会主義以前の法や法的思考・法意識)がその基層をなし、体制移行に伴うグローバルな法規範の国内への移植という潮流、国際関係の「勢力圏」の力学が働く重層的な地域機構や投資関連協定がもたらすトランスナショナルな法規範という潮流および経済開発優先主義・権威主義を具現化する法規範(とくに統治権力の配置と抑制の仕組み)という潮流が、それを特徴づけているとの仮説を立てた。同仮説に基づいて、グローバルおよびリージョナルな「場(fora)」で生成されるグローバルな法規範(例:世界銀行・IMFがコンディショナリティとして被援助国へ課す新自由主義的発想の市場経済法、世界銀行Doing Business各指標、国際人権)およびトランスナショナルな法規範(例:EUの加盟基準、CISモデル法、ユーラシア経済連合や中国「一帯一路」の生成する法規範)を、国家、国際機関、地域機構、多国籍企業、市民社会および私人といった様々な主体が、どのように相互作用しながら国内へ移植し、解釈・執行しているかを把握するための分析枠組み(試論)を構築した。【(1) 分析枠組み(試論)構築】
今後は、開発国家・権威主義国家における統治権力の正統性、(経済)安全保障、グローバリゼーションと法の担い手、ソビエト法的思考回路からの変容と法学教育、ビジネスと人権を着眼点として、同分析枠組みに基づく事例研究を積み重ねる【(2)分析枠組み(試論)に基づく事例研究】。さらに(1)(2)に基づいて、「法と開発」研究、比較法、法社会学及び国際法を架橋する、権威主義国家における法の役割に関する理論枠組み構築を試みる【(3)理論枠組み構築】。
上記成果については、springer社より英語図書として2024年度に刊行予定である。
2023年8月