成果報告
2022年度
中世末期ヨーロッパにおける「奏楽天使」壁画についての学際的研究
- 日本学術振興会 特別研究員CPD(受入機関:國學院大學文学部)
- 勝谷 祐子
■研究の進捗状況
天使たちが同時代の楽器を奏でる《奏楽天使》図像は中世後期以降、聖母やキリストに伴う副次的モチーフとして現れるようになった。悲しみや喜びなどの天使たちの表情や手にする楽器の象徴性、他の図像との組み合わせからヴァリエーションをもって表される。本プロジェクトでは、フランス、スイスを中心に、中世に描かれた《奏楽天使》壁画のカタログ構築を目指す。また専門分野を異にするメンバーが各自、《奏楽天使》図像をもつ壁画の研究を進めながら、それぞれの知識を持ち寄り、サン=ボネ=ル=シャトー壁画の天井部に描かれた楽器の復元を行う。
本年度は目録に関し、バイユー大聖堂の地下礼拝堂、ポワチエ、サン=ピエール大聖堂、トゥールーズ、ジャコバン修道院の聖アントナン礼拝堂、オドレッサン、ノートル=ダム=ド=トラムゼグ聖堂、ラヴァルディン、サン=ジュネスト聖堂、 コルベイユ・エッソン、サンテ=チエンヌ教会、サリニー、サン=ローロン教会、ファルシュヴィル城礼拝堂の撮影を新たに行いデータをまとめた。また、楽器の復元に関してはハープとクラヴィコードの制作を実現した。
■成果と研究で得られた知見
修復家、楽器制作者であるステファン・トレウ (パリ、アメリカ大学) はクラヴィコードの制作に当たり行った研究をまとめ、サン=ギエム=ル=デゼールでの中世音楽フェスティヴァルに伴う学会 (モンペリエ国際中世音楽研究所主催) で発表を行った。不完全なパースペクティヴによるずれや、縮小率を考慮しながらサイズを定め完成した楽器は、ブリッジと調律ピン板 (wrest plank) の間にある弦の共鳴により同形のクラヴィコードに比べ、より明るく響きのある音を作り出す。すでに制作していたハープに奏でられる音との関係に調和が見られるものであることが理解できた。また、勝谷は《奏楽天使》を天井部一面に表すル・マン壁画の修復保存に関する調査報告を西洋中世学会第15回大会にて行い、早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌「WASEDA RILAS JOURNAL No.11」にオリヴィエ・フェロウ (モンペリエ国際中世音楽研究所) との共著となる研究ノートを投稿した (2024年1月公開予定)。
■今後の課題
《奏楽天使》 壁画の撮影を継続しつつ、勝谷はル・マン壁画の修復保存の研究を継続、許可が取れ次第、赤外線カメラを導入した調査を行う。また、ル・マン壁画に描かれた楽器の 仮想モデルにおける復元を予定するヨーロッパ楽器制作院イテームの工学研究室とともに、壁画の3Dスキャンを2日間かけて行う。また、ステファン・トレウ、オリヴィエ・フェロウにより制作されたハープとクラヴィコードとの関係を改めて問い直し、その内容に関する特別講義と演奏家を呼んでの小規模のコンサートをパリ、アメリカ大学で行う。次いで、サン=ボネ=ル=シャトー壁画に描かれたラバーブ、オルガンとリュートの研究、制作に着手、2024年年内の完成を目指す。以上の成果は、2025年秋に、ストラスブール国立大学図書館にて開催する展覧会「描かれた音楽—中世壁画展」とそれに伴う刊行物において発表を行う。
2023年8月