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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2022年度

東南アジアにおける民主主義の後退

慶應義塾大学法学部 教授
粕谷 祐子

研究の進捗状況  1年目に行った東南アジア各国での状況分析を基にした研究を受け、2年目には、民主主義の後退に関する問題のなかでも「なぜ有権者は民主主義を壊す政治家を支持するのか」という問題に焦点を絞り、さらに、東南アジアのなかでもこの問題が特に重要となるフィリピンとインドネシアの事例を分析した。
 フィリピンに関しては、2022年5月の大統領選挙において蔓延した偽情報と、フェルディナンド・マルコスJr.候補に対する支持の関係を、選挙時に実施したサーベイ調査をもとに分析した。
 インドネシアに関しては、2023年7月末時点では、ジョコウィ政権期(2014年から現在)における民主主義の後退状況に関する研究動向分析を行った。特に、主要メディアに対する圧力を通じて政権批判報道を抑制している状況、および、2019年の再選を目指した選挙時におけるインターネット上での偽情報蔓延状況の問題に焦点を当てた。
 また、民主主義後退と関連する現象として、敵対政党に対する好悪に関する「感情的」分極化、イデオロギー分極化、政治リーダーをめぐる分極化のどれが重要なのか、国際比較データをもとに分析した。

成果 (1) 慶応義塾大学三田キャンパスにおいて、Disinformation and Democracyというテーマの公開セミナーを実施した。これにあたってはアリエス・アルガイ(フィリピン大学)、アリフ・サトリア(インドネシアCSIS)、スラチャネ・シリアイ(チェンマイ大学)を東京に招聘し、またロス・タプセル(オーストラリア国立大学)にはオンラインで報告をしてもらった。
(2) 粕谷は、スタンフォード大学のCenter for Development, Democracy and the Rule of Law (CDDRL)において以下の口頭報告を行った。Democracy and Disinformation in the Philippines (2023年3月7日ランチセミナー)、Roundtable discussion on Democracy and the Rule of Law in the Philippines (2023年3月9日セミナー)。
(3) 粕谷は、2023年7月にブエノスアイレス(アルゼンチン)で開催された世界政治学会において、Re-examining the Relationship between Polarization and Democratic Backslidingという三輪・小椋との共著論文を口頭で報告した。

研究で得られた知見 フィリピンの2022年5月選挙においては、マルコス一家に関する偽情報が蔓延し、偽情報を信じている人とマルコスJr.支持層の間には統計的に有意なレベルの相関関係があることが判明した。また、民主主義の後退に関する国際比較分析では、先行研究において感情的分極化との関係が指摘されていたが、より適切な分極化指標を利用した場合にはイデオロギー上の分極化が重要であることが判明した。

今後の課題 今後もアジア諸国の選挙における偽情報、および、政治的分極化の問題を研究する計画である。具体的には、2024年2月のインドネシア大統領選挙、2025年5月のフィリピン中間選挙においてどのような偽情報が発信され、これらが有権者の投票行動にどう影響するのかを分析予定である。

2023年8月