成果報告
2022年度
権威主義に対するデジタル化による内外的影響―デジタル権威主義論再考―
- 愛知学院大学文学部 講師
- 大澤 傑
1.研究の進捗状況
近年、デジタル技術が権威主義を強化するという「デジタル権威主義論」が隆盛しているが、ロシアのウクライナ侵攻後、デジタル空間を通じた国際的なロシア批判やウクライナ支援がなされるなど、デジタル化=権威主義の安定とは言えない状況も生じている。本研究の目的は、デジタル技術が権威主義体制の安定/不安定にもたらす効果を、内政と国際関係双方の視点を踏まえたうえで明らかにすることである。
本研究は、オンラインと対面による月例研究会を中心に、防衛大学校グローバルセキュリティセンターでのセミナー、各研究者による学会および研究会報告を通じて進めてきた。
デジタル技術と政治体制の関係について、多様な理論・地域の専門家が同じ視座から研究を行ったことにより、現在、デジタル技術による政治体制への影響を一般化できる可能性が見えつつある。
2.成果
助成期間においては、防衛大学校グローバルセキュリティセンターの協力を得て、大規模なセミナーを開催した。さらに、各研究者も所属学会等の研究会において報告を行った。これらの研究成果をまとめたものを、近年中に書籍として出版する予定である。
3.研究で得られた知見
内政にのみ注目した地域研究においては、デジタルが権威主義を強化するという先行研究と同じ結論が導出される傾向にあるが、そこに国際関係の視点を加えたことによって、デジタルが民主主義を促進する可能性が示唆された。また、本研究の主たる研究対象は権威主義であるが、民主主義の後退が進む現代において、そもそもデジタルが社会全般に与える原理的な影響を捉えることができた。すなわち、「デジタルは(政府、企業、市民等の)誰に資するのか」である。これを精緻に読み解くことにより、デジタル権威主義論の再考のみならず、民主主義への適切な処方箋を提示することができると考えられる。
また、デジタル技術を用いた権威主義体制の維持と、権威主義が他国にデジタル技術を通じて攻撃を仕掛ける「ハイブリッド戦」の関係性に関する知見が得られた。そのうえで、デジタル技術を用いた対外政策を権威主義体制維持の観点から位置付けることができた。
4.今後の課題
後退する民主主義においてデジタル技術をどのように活用するかのみならず、デジタル技術が権威主義政治をどのように変えたのかについての研究を深めたい。特に、個別具体的な技術と政治体制の関係については、一層の研究が必要である。さらに、中長期的な権威主義と技術の関係についての研究も発展させる必要がある。
2023年8月