成果報告
2022年度
「趣味」の昭和史の構築―シリアスレジャーの観点による生涯学習論の刷新に向けて―
- 聖路加国際大学大学院看護学研究科 准教授
- 歌川 光一
1.研究目的と進捗状況
本研究は、テイストよりもホビーとして用いられることが一般化した昭和期の「趣味」の意味変容や趣味活動と教養主義、学校外教育の展開との関係を明らかにすることを目的としている。その際、余暇社会学におけるシリアスレジャー(R.A.ステビンス)の枠組みを参照し、研究領域としての生涯学習論の刷新につなげたいと考えている。
2022年度、メンバー全員の協議を通じ、汎用性の高いように見える「趣味」が孕む、シリアスさ、倫理性、教育性等を学術的な課題として取り上げる意義、および他領域との架橋の可能性について検討してきた。また、メンバーの一部は、生涯学習論・社会教育学に関わる学会や研究会で趣味、シリアスレジャー等の位置づけについて検討を続けている(日本社会教育学会プロジェクト「社会教育学における余暇・レクリエーションの再検討」、権田保之助スタディーズ、余暇ツーリズム学会等)。さらに、上記と並行する形で、メンバー各自が、それぞれの専門領域の立場から趣味(ホビー)の実践(史)に関わる成果を公表した。
2.関連成果(一部)
歌川光一(2023)「コロナ禍における「本格的な料理」としての家庭料理と女性」昭和女子大学女性文化研究所編『コロナ禍の労働・生活とジェンダー』御茶の水書房
歌川光一(2022)「趣味の self-cultivation 性―「生涯学習」の再考に向けて」『看護研究』55(6)
岡邑衛(2023)「中学校吹奏楽部の指導者に求められる資質・能力―部活動の地域移行をめぐって―」『音楽文化の創造(電子版)』Vol.24
塚本麿充(2024 予定)「「ヴァナキュラー」と「アート」の「あいだ」に―大正・昭和初期における余技・南画家たちの暮らしと実践―」菅豊編『ヴァナキュラー・アートの民俗学(仮)』東京大学出版会
青野桃子(2023)「余暇・自由時間とウェルネス」大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所編『スポーツとウェルネスのイノベーション』創文企画
杉山昂平・執行治平(2022)「レジャー多様化時代の社会教育番組による趣味の表象」日本メディア学会 2022 年秋季大会
3.今後の課題
議論の中で、「労働/余暇」という生活の枠組みに収まるとは限らないヒトの「趣味」の把握(女性の家事の他に、幼児の遊び、クラブ活動や部活動、高齢者の生きがい等)が課題に挙がり、国内外の研究レビューを通じて「趣味」のイメージ検証のためのインターネットサーベイの立案に取り掛かっていたが、年度内にはかなわなかった。また「趣味」の昭和史に関連する分野として、教養・修養主義、生きがい、ウェルビーイングを俎上に挙げるための宗教社会学的レビュー、生活文化論の総体的把握に課題を残した。
今後も上記の課題に取り組みつつ、趣味と教育・学習の関係の問い直しをテーマとした成果公表につなげていきたいと考えている。
2023年8月