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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2021年度

茶産地静岡における茶会文化の特性に関する研究

静岡大学 非常勤講師
吉野 亜湖

【研究の目的と意義】
 静岡は日本最大の茶産地であるのに、市民は「茶文化はない」という評価をしがちである。それは、産地であるからこその独自の茶文化が生活の中に存在しているのに、あまりに当たり前すぎて「文化」という意識を持たないことによる。特に文化の主要な担い手でもある茶業関係者は、経済活動から派生した茶文化は、文化として認識をしない。令和元年に茶の産出額が他県に抜かれたことが大きな話題となった。翌年に首位の座を奪還するも、茶価の低下や後継者問題等もあり、茶栽培面積の減少傾向は止まらない。このような時期だからこそ、地域文化を縮小させるのでなく、量より文化の厚みを誇れる地域社会へ向かうべく、静岡の茶文化の独自性を明らかにし、その担い手たちが文化という意識を共有していく必要があると切実に考えた。茶産業があるからこそ派生してきた地域文化について考察し、実態を明らかに示し、伝え、実践することで、地域文化の意識向上と活動の維持発展に寄与することを目的とした。

【研究の対象、実施方法等】
 茶道家である筆者は、静岡には「茶道」とは異なる農家や茶商など茶の専門家が主催する市民参加型の「茶会」があることに注目した。静岡市の山間地大間の集落では民家の縁側で茶を振る舞うことで交流を行う「縁側カフェ」や、静岡市茶業振興協議会の号令から始まった「毎月一日は茶に親しむ日」に、農家の母屋や茶工場などで市民に茶を呈する会が定着していた。しかしながら、多くが新型コロナウイルスの影響で休止を余儀なくされている。対して、コロナ禍に「オンライン茶会」や、茶畑にテラスを作製して景観を楽しみながら茶を飲む「茶の間」というような新しいスタイルが見られるようになった。このような地域振興や茶業振興を根底意識として持ちながらも、利益活動を主体としていない静岡独自の茶の会から、静岡の茶文化の特性を明らかにしたいと、現状調査を行い、主催者と参加者のインタビューと、県内外の社会人と学生を対象にアンケート調査を行った。
 コロナ禍に変化対応していけるのも、茶産地の豊な文化的素地があったからこそでもある。そのため、この根本にある静岡の茶文化の独自性をまとめ、明文化して市民と共有するため、シンポジウム「静岡の茶文化を考える」を開催した。会場は満席で、茶産業の縮小と伝統的茶文化が失われつつあるという危機感を多くの市民が共有していることも分かった。茶は県民の「アイデンティティ」になっているという意識、若い世代からも自らが文化継続のための行動をしていかなくてはならないという意見が発せられた。報告書は市民に配布を予定している。さらに、共同研究者らは茶文化の実践者でもあるため、各専門を生かし、今後の茶会文化発展に寄与する目的で、市民向けオンライン勉強会とオンライン茶会を実施した。
 以上のように静岡の茶文化を形作ってきた歴史や周辺事情、産業等について改めて考え、実践して示すことで、担い手である各自が自覚を以ってこれからに臨む必要性と、コロナ禍で変化しつつある茶文化について現状の記録を取り、次に渡せる形にするということの重要性も意識された。
a)インタビュー調査対象者:①コロナ前の茶会主催者、②他の茶産地の福岡の茶関係者、③急須の産地常滑で「お茶ナビ」を担当している急須作家。(オンライン勉強会で一般公開)
b)アンケート調査対象者:①県外からの視点も重要かつ刺激になると考え、県内外の社会人、②これからの茶文化を担う世代として茶の授業を受講する静岡大学の学生。(報告書「静岡の茶文化を考える」に記載)


【研究の成果発表と茶会実践等】
1.国際お茶の日「静岡茶の文化を考える」シンポジウムを開催(2022/5/21もくせい会館)。報告書は「世界お茶まつり秋の祭典」(2022/10グランシップ)で配布予定。
2.オンライン勉強会の実施。(2021/8/20中村順行「静岡の茶の品種」、8/27フェルケール博物館学芸部長、2022/5/13吉野亜湖「静岡茶の歴史と文化」、5/20ブレケル・オスカル対談、7/1石部健太朗「静岡県茶業報告書」)
3.オンライン茶会(農家と茶商による静岡スタイルの市民向け茶会:2021/12/4静岡市)と、茶産地と急須産地の意見交流茶会(作家と茶商と茶道家と茶文化研究者と一般市民参加:2022/6/7-9)の開催。

2022年8月