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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2021年度

関係人口の創造を通した地域文化の魅力再発見と継承の地域ネットワーク構築

北九州市立大学基盤教育センター 准教授
廣川 祐司

1.研究の目的と背景
 本研究は、地域住民と外部者とが地域の風景やまちなみを楽しみながら歩ける“フットパス”による地域づくりについて、先進地域である熊本県美里町の事例を振り返り、他地域への適応可能性を検証することが目的である。地域の生活文化(慣習)の中でも、特に「地域の食文化」に注目し、その食文化をフットパス活動で出会った人たちと共に、再度、地域資源化し、地域の食文化を継承・発展させているという仮説の検証を試みた。
 地域文化の継承と発展を考える際、「担い手(人)」・「手法(情報)」・「費用(金)」・「地域資源(モノ)」をセットで考えなければならない。地域文化が色濃く残る地方の地域社会では、過疎高齢化に伴う地域文化の断絶が生じている。本研究では、フットパス活動によって外部者が地域を歩きに訪問する際、地域住民との交流や生活文化の体験をすることによって地域のファン(関係人口化)になる。この関係人口となる外部者と住民との交流によって、地域住民のシビックプライド(地域への誇り)が地域文化の担い手となり、地域住民へ些少ながらも参加費というお金も得られる。なるべく、地域で採れたものを使い調理をするという考え方のもと、地域資源の活用、調理法(手法)の継承という事が可能となる。

2.中間成果報告会でのご指摘
 熊本県美里町・大分県臼杵市・滋賀県東近江市の3地域で「フットパス+α」の取組みについて調査した。フットパス+縁側カフェ、フットパス+農泊などの取組みを実際に実践することによって、その地域住民に与える影響を明らかにし、中間成果として報告した。
 フィードバックコメントは、「必ずしもスムーズに進捗していない事例の分析を通して、地域の特性を生かしつつ汎用性を高めるアイディア(処方箋)を示す」ことが期待されるというような、失敗例からの要因分析を期待する指摘を複数の選考委員より頂いた。
 他の事例を追加調査し、研究成果をまとめることを試みたが、春季休暇(2月・3月)に集中的に調査計画を立てていたが、第6波の影響を受けて不可能となった。その後、共同研究者と議論を重ね、ご指摘頂いた点についての、理論的な仮説は立てることができてはいるが、継続してより深い検証が必要であると考える。

3.研究成果(結論)
 まず気軽に外部者が地域の日常生活に入り込み、交流できる仕組みづくり(フットパス)を地域で用意する。その際、「地域の人・歩きに来る人(外部者)・仕組みをつくる人」が存在するが、地域の人と歩きに来る人が直接交流できるようにすることが成否のカギとなる。ややもすると、外部者と仕組みをつくる人(例、観光協会やガイドさん)が交流し、地域の人は仕組みを作る人に「協力したに過ぎない」という構図が生じやすく、これは失敗に終わる。さらに、外部者と地域の仕組みをつくる人のみで完結してしまうことすら多く、まさしく創られた日常を「仕組みをつくる人」が用意し、一般の地域住民と接点がないまま交流が終了することが多々ある。フットパスづくりをしても、景観などのコース自体の魅力以上に、地域住民と交流し日常生活を体験できるような工夫や仕組みがフットパスづくりの際にできているかどうかがカギとなることがわかってきた。

4.今後の展望
 未だ調査不足、より深い検証が必要ではあるが、宮崎県串間市、熊本県芦北町でも美里式フットパスづくりをモデルとした取り組みをしているため、追加調査を引き続きしたいと思っている。上記したように、仕組みをつくる人が一般の「地域住民(生活者)」の理解を得たり、活動に巻き込んだりする際の困難やできないと思われる障壁について、より深く明らかにすることが求められる。つまり、仕組みをつくる人の人材育成をするアクターが必要であるといえる。フットパスネットワーク九州が「フットパス大学」という人材育成講座を実施しているが、この講座を受講し、フットパスリーダーを取得した者が、各々の地域で実践する際、「頭ではわかっているが実践ができない」という心理的ハードルをいかに解消していくかについて、より継続した経過観察が必要になってくると感じている。

2022年8月