成果報告
2021年度
COVID-19下における祭礼・民俗行事の継承をめぐる困難と模索、新たな可能性
- 法政大学社会学部 教授
- 武田 俊輔
周知のように、2020年以降のコロナ禍の広がりによって全国で多くの祭礼行事が中止を余儀なくされている。大規模で大規模な人流をもたらす都市祭礼はもちろん、全国的な知名度を持たないような地方都市の祭礼や民俗芸能においても開催の見送りや神事のみへの縮小が相次いだ。またコロナ禍は単に祭礼当日における実施にとどまらず、日常的な継承活動にも大きな影響を与えている。
本研究の目的はこうした状況をふまえて、コロナ禍における祭礼および民俗芸能の状況を調査するとともに、それについての分析枠組みを現段階で構築することである。具体的な対象としては岩見沢ねぶた祭り・青森ねぶた祭り・五所川原立佞武多・女川町の民俗行事・日光市栗山地区(旧栗山村)の民俗行事・三社祭・岐阜金神社新嘗祭・岐阜まつり・長浜曳山祭・岸和田だんじり祭り・城崎だんじり祭りについてとりあげている。
本研究では以下の3点について明らかにした。第一にコロナ禍がもたらした、祭礼・民俗芸能を行うための資源(資金・人的資源・技能・山車や道具などの物的資源)の調達をめぐる困難についてである。特にまず問題になったのは、人的資源やそれと結びついた技能資源の動員・継承であった。少子高齢化が著しい過疎地の事例はもちろん、都市祭礼でも密による感染リスクが避けられないがゆえの動員の困難があった。技能の伝承の機会も失われ、そのことは中長期的にも、技能やノウハウの継承におけるダメージとなるであろう。
第二に祭礼・民俗芸能をめぐる担い手内部、地域社会における分断、外部からの匿名での異議申し立てをめぐる問題である。コロナ禍での祭礼の実施をめぐっては、感染したときの不安や感染者への偏見という点で祭礼の担い手同士の間、また担い手と地域社会における他のアクターとの間で分断を引き起こす危険があり、それが足かせとなる。特に外部からの資源調達に依存してきた祭礼では、行政や地域住民の不安の声を無視することは困難だ。また匿名の非難やバッシングや、他地域での自粛状況も祭礼・民俗芸能の実施の可否の判断に大きな影響があった。
一方で、継承活動が困難をきたす中においても、担い手は祭礼の実施や復活、またコロナ禍においても継承を続けるべく様々な戦術を駆使している。オンラインでの発信は外からの観客が来ないようにして対策をしつつ本番を何とかして生み出そうとする実践であると同時に、対策を地域社会内部にアピールしつつ実施を正当化する戦術的意味もある。また感染対策と地域社会における信頼関係を活用して、祭礼を縮小開催した事例も見られた。こうした戦術を様々に駆使して、祭礼を継承、復活させようとする担い手たちの行為を支える抵抗力・レジリエンス(回復力)の源泉としての世代継承性の根強さもまた、このコロナ禍は明らかにしたことを忘れてはならない。
感染が収束しない状況が続く中、今後も広範かつ継続的な調査を通じて知見を更新し、コロナ禍が与えた影響を引き続き明らかにしていくと共に、担い手たちの努力に伴走するためのとりくみが、本研究の今後の課題となる。
2022年8月