成果報告
2021年度
棚田文化継承のための耕作マニュアル作成を通じた地域振興
- 新川田篭環境資産保全研究会 理事長
- 菊地 成朋
1. 研究の背景と目的
棚田の文化的価値が見直される一方で、多くの棚田地域は住民の過疎高齢化によって持続の困難に直面している。ただ、棚田に関心をもつ都市民は増えつつあり、それを現地の人的支援に繋げることができれば、持続の可能性が開ける。しかし、口伝のみで伝えられてきた文化や技術を経験のない都市民が習得することは困難である。それらを地域住民の協力を得て収集・整理し、明文化された資料として残すことで、棚田の営みを伝承し、新たな担い手の発掘に繋げたい。
当グループは、2014年より福岡県うきは市の「つづら棚田」を対象として、地域内外の市民が参加して棚田耕作を行う「棚田まなび隊」の活動を行なっている。今回のプロジェクトでは、棚田まなび隊の活動を継続発展させるとともに、そこで得られた知見、地元へのヒアリングや耕作活動の実地取材、これまでの研究蓄積をもとに「棚田耕作マニュアル」の作成に取り組む。
2.本年度の活動内容
1) 棚田耕作の実践と記録
棚田まなび隊:2021年には、隊員35名、ビジター16名による年間12回の活動を実施した。新型コロナウイルス蔓延による緊急事態宣言下での活動で一般会員の参加は例年より減少したが、各回の参加率は高かった。また、同年度には地域でイモチ病が流行し、無農薬での耕作を実施している棚田まなび隊の収量は例年の1/4ほどに減ってしまった。そのため隊員への配分は僅かとなったが、それへの不満は聞かれず、むしろ学びを口にする隊員が多かった。翌2022年にも隊員39名、ビジター8名の参加を得て、順調に活動を続けている。なお、2022年の隊員募集ではオンラインによる説明会を開催し、活動の趣旨や地域の課題などについても理解を促した。
「マイ田んぼ」プログラム:個人が自力で棚田耕作に挑む「マイ田んぼ」プログラムを始めた。2021年度には4組7名の隊員に試行してもらい、課題についてモニターした。その結果、「マイ田んぼ」は少人数での作業となるため、共同作業の棚田まなび隊と違って初心者には難しい面があることがわかった。2022年度は、それを踏まえながら独立した定常的なプログラムとして料金設定なども見直し、希望した1組4名が取り組んでいる。
地域農家との交流:2022年1月の地元住民集会で、これまでの活動や調査について報告を行なった。地元の方々には棚田まなび隊の指導やヒアリング調査で協力いただいているが、活動の趣旨や目的について知ってもらう機会としてこの発表を行なった。同時に、地元からの意見を聞くこともでき、有効な交流の機会となった。
2) 棚田の成り立ちと仕組みに関する調査研究
水系調査:つづら棚田の180枚の田1枚1枚について取水、排水の状況を記録し、それらをつなぐ水路についても把握した。また、水利権や水管理について地元農家の方にヒアリングを実施し、これまでの経緯や地域のルールなどを伺った。さらに、年度を跨いで調査を行うことにより、システムの揺らぎについても把握した。
生物調査:棚田まなび隊の活動の一環として生物調査を実施した。棚田周辺の植物の写真を撮り、記録をつくる作業を行なった。さらに、植物系統学を専門とする九大教授の指導のもと、種の同定を試みた。
他地域の視察:当研究会では他の棚田地域の視察を定期的に行なっている。当該期間においては奥出雲の鉄穴流しによって形成された棚田を視察し、同地域が取り組む文化的景観としての棚田について学んだ。
3) 耕作マニュアルの作成
マニュアルの項目ごとに分担して情報を収集している。項目は①棚田の形成 ②棚田の仕組み ③棚田の営み ④棚田の生物 ⑤棚田保全・再生の取組み ⑥新川田篭地区を設定している。情報の収集にはクラウドを活用し、蓄積・議論のためのプラットフォームをつくった。また、アウトプットシートの共通フォーマットを準備し、それにもとづいて成果がまとまってきたものからマニュアルの叩き台を作成していった。
さらに、月1回のオンライン・ミーティングを開催して内容を検討した。各自で作成したシートや研究の途中経過などを発表し、それをメンバーで議論した。オンライン・ミーティングは、棚田まなび隊の活動についても整理する機会となるため、活動全体に対して効果的である。
3.今後の予定
棚田マニュアルについては、情報収集とアウトプットシートの作成を継続し、その内容をオンライン・ミーティングで吟味していく。それらをまとめてマニュアル・パイロット版を作成する。それをもとに地元の方々に意見をいただいて修正を加え、製本する。2023年度の完成をめざしている。
2022年8月