成果報告
2021年度
戦後日本における「河内的なもの」と「船場的なもの」に関するメディア文化研究
- 神戸市外国語大学外国語学部 准教授
- 山本 昭宏
1.研究目的・概要
本共同研究は、敗戦から高度成長期の日本社会において、「大阪的なもの」が占めた位置を解明することを目的としている。「大阪的なもの」といってもその内実は多様であり、その都度構築される動態的なものである。そこで本研究では、「河内的なもの」と「船場的なもの」という分析概念を導入することで「大阪的なもの」の内実と変化を記述しようと試みる。
両者は空間性・地理性に関わる概念であると同時に、歴史的階層性にも関わる概念であり、当事者たちの主観と外部からのまなざしにも関わる概念である。このような多岐に及ぶ概念である「河内的なもの」と「船場的なもの」という分析概念は、戦後大阪の歴史的実体とメディア表象との往還関係を通して精緻化する必要がある。そして、その作業そのものが、本研究の目指す「戦後日本における「河内的なもの」と「船場的なもの」に関するメディア文化研究」となる。
具体的に考察の対象とするのは、次の作品群である。「河内的なもの」については、今東光・菊田一夫に関わる作品を、「船場的なもの」については谷崎潤一郎・山崎豊子・花登筺の小説および映像化作品を取り上げた。
2.進捗状況と新たに得られた知見
Zoomなどのオンライン会議ツールを取り入れることで、研究会は予定通り開催できた。また、船場と河内へのフィールドワークも実施できた。これらの成果として、研究成果論集の出版決定を挙げることができる。成果論集はミネルヴァ書房より2022年度中に発刊される予定であり、現在研究メンバーは論考を執筆中である。
次に、これまでの研究で得られた知見を整理しておく。
「船場的なもの」について:船場の文化は地域文化というよりは、商人・町人という「身分」と結びついた排他的な身分文化(あるいは職業文化)という側面を有している。それは政治権力と不即不離であった近世以来の「伝統」でもあった。戦後は「身分」の解体が進んだが、失われゆく実態と反比例するように、山崎豊子や花登筺によって、根性や「がめつさ」といった精神性に力点を置いた「地域文化」として表象された。
「河内的なもの」について:河内地域は、近世以来、船場に物的・人的資源を供給してきた歴史を持つ。都市の後背地である河内は、船場に比べると広大な空間であり、その内実は多様である。近代に限っていえば、船場に比べると経済的・文化的に劣位にあったが、船場を「下」から取り囲むようにして「河内的なもの」が成立した。さらに、メディア文化においては、「河内的なもの」は前近代からの連続性を担うようにもなった(今東光や河内音頭)。
両者は、高度成⾧期に起こっていた笑いの文化の隆盛(特にテレビ文化)というイメージの奔流に合流していった。こうして、「大阪的なもの」は、必要に応じて、船場的な資本主義的合理性と河内的な土着的非合理性を、都合よく使い分けることが可能になった。
3.今後の展開
成果論集をミネルヴァ書房より刊行予定である。また、各メンバーは所属大学の研究紀要に投稿すべく、現在、論考を執筆中である。
2022年8月