成果報告
2021年度
権威主義化する世界と憲法改正
- 法政大学法学部 教授
- 溝口 修平
1.研究目的と概要
現在、世界的に権威主義化の進行、特に漸進的で目に見えにくい形での権威主義化が問題視されている。そして、憲法改正はそのための重要な手段となっており、民主的な選挙で選ばれた指導者が、自身の権力を拡大する手段として憲法改正を利用している。このような現象が様々な地域で進行しているが、それを比較する研究はこれまでなされていない。
本研究は、現在憲法改正を利用しながら権威主義体制を強化している国々(ロシア、中国、トルコ、ベネズエラ、エジプト、タイ)と権威主義体制の歴史的事例(韓国、スペイン、ポルトガル)を比較しながら、①独裁者による憲法改正の狙いは何か、②こうした憲法改正はエリートや国民に対してどのように正当化されているのか、③憲法改正は権威主義体制の安定性にどのような影響を与えているのかという3つの問題を検討した。
2.研究成果
現在までのところ、各国の事例において、憲法改正が為政者の権力を強化する一方で、それは有権者の政治変革を求める声と連動する形で生じることが多いことがわかった。別の言い方をすると、有権者の要望に沿った形で憲法改正の必要性を正当化できた場合に、その動きは成功すると考えられる。したがって、権威主義体制におけるポピュリズムがこのような憲法体制を可能にしている。
本研究は、法政大学ボアソナード記念現代法研究所の研究プロジェクト「権威主義化の進む世界と憲法改正」(2020−2022年度)と連動しており、両プロジェクトの成果として2023年度中に同研究所の叢書として刊行する予定である。現在、そのために研究会を実施して各メンバーの研究報告について議論しつつ、出版社の選定などを進めている。
3.今後の課題
コロナ禍の影響もあり、研究会の開催が予定より遅れている。成果刊行までにあと3度の研究会を実施して、さらに議論を重ねる予定である。また、3つの検討課題のうち③は、現在進行中の事例も多く、評価が難しいところである。この点を最終的な成果の中に組み込むかどうかもさらに検討が必要である。
2022年8月