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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2021年度

「アナーキーなまちづくり」の実践理論に関する研究

大阪国際大学経営経済学部 准教授
早川 公

1.研究目的・概要
 本研究は、相互性と自立性を基盤として管理や標準化に抵抗しながら生活空間を改編するプロジェクトを「アナーキーなまちづくり」と呼び、その実践理論の解明を試みるものである。すなわち、「アナーキーなまちづくり」のレンズで社会実践を検討することによって、現代のまちづくり研究が捉え損なっている社会構想・社会構築の技法を浮かび上がらせ、来るべき持続可能な社会の足場となる学問の未来を拓くことが目的である。
 継続採択となる本年度は、主に「在来作物」と「〈統治されない技法〉の教育」という2つのプロジェクトを継続しつつ、「アナーキーなまちづくり」の観点から「世界一住みたい街」ともいわれるアメリカ・ポートランドに赴いてその様子を観察した。

2.新たに得られた知見および成果
 今年度は、大きく3つの進展があった。第1に、在来作物を存続させる論理である。そこでは、しばしば「(地域)ブランディング」と形容されるような資本の論理に適合していくものとは異なる実践の仕方がインタビュー・観察から確認できた。それは例えば、親族やコミュニティ間での贈与交換や、種のやりとりを通じた「プロトタイピング」を通じて世界を把握する試みであった(関連する共著論考が『環境情報科学』51巻2号に掲載)。
 第2に、初年度に抽出した合意形成やNVC(Non Violent Communication)の手法のような“統治されない技法”の要素を、共同研究者でプロのファシリテーターの小笠原と“統治されない技法”の教育としてプログラム化を進めたことである。さらにその教育実践を論文にまとめることができた(『関係性の教育学』21巻掲載)。
 第3に、ポートランドのフィールドワークを通じて、「成功事例」とされる取組みにアナーキーさが潜行していることを確認できた点である。調査は、事前に文献調査やポートランド州立大学のワークショッププログラムへの参加、そしてポートランドのまちづくり関係者へのオンラインヒアリングを実施した上で、約5日間のフィールドワークを実施した。小規模農場、クラフトコーヒーやビールの経営、City Repairやコミュニティ・キッチン、果樹木栽培を通じた気候変動プロジェクト等の非営利活動、空き地や都市のすき間で農園にするラーニング・ガーデンなど別様にみえる各々のプロジェクトは、消費(市場交換)の論理を丁寧に選り分けつつ、贈与やDIYの実践を駆使してアナキストのハキム・ベイが提唱する「一時的自律ゾーン(TAZ)」を確保しようとしている態度が共通していた。またそうした取組みを、語義の範囲を拡張して「Organic」と表現する点も示唆的であった。
 今後の展開としては、別の研究資金をもとに2つの研究プロジェクトをさらに進めつつ、今年度の調査内容をもとに共同研究者らと本テーマに基づく本の出版を企画している。

2022年9月