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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2021年度

新アーカイブ資料に基づくマケドニア文章語形成を巡る国際関係史再考

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 教授
野町 素己

1.研究の進捗状況
 コロナ禍とウクライナ侵攻で計画したロシアとマケドニアの文書館調査が不可だったため、現地協力者から限られた量の資料を入手し研究を進めた。当初の通り、専門が異なる研究メンバー(言語学者、歴史学者、政治学者)と意見交換を行い、本研究開始以前に入手した資料と本研究課題で新たに得た未刊行資料を分析し、代表者と研究メンバーが前書き、注釈、参考資料を付したサムイル・ベルンシュテインの未刊行『マケドニア語文法』の本文は概ね完成した。ベルンシュテインの恩師アファナシイ・セリシチェフ、弟子ニキタ・トルストイのマケドニア語に関する未刊行資料も一部入手し、ベルンシュテインの手稿の意義をソ連言語学史の文脈で再検討を可能にした。これらは研究メンバーで討論して本文法書の解説に組み込む作業を行い、いち早い刊行を目指す。

2.研究成果
 研究成果として、代表者は以下の国際学会発表と論文刊行を行った。
1.“Interactions between Blaže Koneski and Samuil B. Bernštejn. From unpublished archival materials.” XLVIII International Scholarly Conference at LIV Summer school of the International Seminar of the Macedonian Language, Literature and Culture(2021年9月4日、北マケドニア・オフリド)→査読付き学会プロシーディングスに掲載 2.“Seliščev as a synthesist: A story about his unrealized Slavic Linguistics II. South Slavic Languages.” Scholarly Heritage of A.M. Seliščev (2021年12月8日、ロシア・モスクワ)→国際査読付き学術誌Slavistikaに掲載決定 3.“Samuil B. Bernštejn and a question of literary Macedonian.” Ohio State University – Ca’ Foscari Joint Workshop on South Slavic and Balkan Languages (2022年3月2日、米国・コロンバス) また、論文 The evolution of Samuil B. Bernštejn’s views on two “Questions of Slavistics”が米国の学術誌Balkanistica35号に掲載された。

3.研究で得られた知見
 コネスキはベルンシュテインのマケドニア語標準化事業参画に反対だったが、ベルンシュテインの『マケドニア語文法』執筆に際し、資料提供等で重要な役割を持ったことが未刊行の文通と日記の分析で明らかになった。また、文法書本体と日記の分析により、ベルンシュテインの言語記述は言語学的動機のみならず反セルビア的価値観があり、これはソ連とユーゴ王国との政治的文脈、セルビア言語学界のマケドニアへの帝国主義的な立場への反動であることも明らかになった。

4.今後の課題
 標準化事業に関わったニコライ・デルジャビンの資料が入手できなかったので、ソ連の学者や当局の関与は明らかではない。またマケドニア以外のユーゴの言語学者や当局の標準化事業への関与も不明点が多く、当初計画には無かったセルビアの文書館の資料収集と分析が必要で、ベルンシュテインの文法書の意義を言語・政治・歴史的観点からより深く検討することが課題である。

2022年9月