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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2021年度

戦後日本におけるリベラル・モダニズムの総合的解明

立命館大学法学部 教授
德久 恭子

 戦後日本では、政治・経済・社会における体制選択論の意味が実質的に失われた1960年代以降に、それまでの政治の基軸となった「保守対革新」という構図には適切に収まらない、自由民主主義体制を前提とする改革論(体制内改革論)が登場し、各分野での影響力を高めた。
 本研究プロジェクトでは、そうした立場を「リベラル・モダニズム」と位置づけ、歴史学・思想史学・教育学・政治学など複数のアプローチから、その特徴と実相の総合的な解明を目指して進められてきた。
 助成を得て行った1年間の研究活動を通じて、メンバーそれぞれの関心領域やテーマにおいて、戦後民主主義体制を前提とした改革論として「リベラル・モダニズム」とまとめうる立場が存在したことは確認された。
 具体的には、以下のような知見が得られた。①リベラル・モダニズム的な立場は戦前期の政治史にも見出し得ること。②戦後については、マルクス主義に代表される左派のモダニズム(近代主義)や本研究が注目するリベラル・モダニズムのいずれとも異なりながらも、日本の政治・経済・社会の近代主義的な理解や変革の構想を持つ点では共有する第三極的な知識人の存在を考慮すべきこと。③リベラル・モダニズム的な立場が、文学作品やテレビドラマなどを通じて市民社会に広く受容されていた可能性があること。これらはいずれも、リベラル・モダニズムを理解する上で大きな意味を持つ。
 一方、リベラル・モダニズムという概念が適用しづらい領域やテーマを把握し、分析概念としての射程や外延を探る作業、およびそれが個人の思想であったのか、一種の集合知であったのかを起源に遡り掘り下げる作業が必要であることも明らかになった。21世紀最初の4分の1が終わりに近づきつつある今日、リベラル・モダニズムの理念的生命力は継続しているのかどうかも、もちろん問われねばならないのであろう。
 総じて、ここまでの知見から鮮明になったことは、戦後日本におけるモダニズムという概念そのものの「手強さ」である。そもそも幕末維新を経て近代国家になった日本で、戦後になぜモダニズムが再び変革の理念として登場したのか。それは何を目指したのか。その理念はどこまで続いていた(いる)のか。これらの点は、近代日本にとって「近代」とは何であるのか、近代社会が求める「外」たる「非近代(伝統)」とは何であるのか、という根本的かつ刺激的な問いかけにもつながっていく。時間軸や対象を広げて、この問いを解明する必要がある。
 そこで本研究プロジェクトでは、サントリー文化財団からの助成期間が終了した後にも、おおむね1年間を目処にグループとしての活動を続けることとした。幸い、プロジェクトの成果を出版する計画ができていることから、そのための進捗状況把握を兼ねて、メンバーによる研究報告を中心とした会合を今後も複数回にわたって実施する予定である。

2022年8月